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台湾漁船、金門島沖で中国に拿捕 頼政権への圧力強化の現れか

まいどなニュース 2024年7月4日 19時5分

中国大陸から数キロしか離れていない台湾離島・金門島の周辺で7月2日、操業中の台湾漁船に中国海警局の巡視船が接近し、強制的な立ち入り検査を実施した。その後、乗組員6人を拘束し、中国側の港に連行する出来事が発生した。乗組員のうち1人は台湾人、残りの5人は外国人だという。現在のところ、それ以上の詳しいことは明らかにされていないが、この付近では2月に中国漁船が台湾当局の検査要求を受けて転覆し、中国人2人が死亡する出来事が発生しており、今回の拿捕はその報復と見られている。

頼清徳氏が新たな台湾総統に就任してから1カ月半となるが、習近平政権は前政権に与え続けた以上の圧力を頼政権に加えようとしている。それを決定づけたのが、頼氏の5月20日の就任演説だ。この演説の中で中国が最も神経を尖らせたのが、頼氏の「中華民国(台湾)と中華人民共和国(中国)は隷属しない」という主張で、これは台湾統一をノルマに掲げ、そのためには武力行使も辞さない構えに撤する習政権にとっては絶対に受け入れられないものだ。頼氏の中台関係は“横軸”で、習氏の中台関係は“縦軸”という違いがあり、両者の間に妥協点は見出せない状況である。

そして、中国は頼氏の就任演説から間もなく、台湾本土を取り囲むような大規模な海上軍事演習を行った。このような軍事演習は2022年8月、当時のペロシ米下院議長が台湾を訪問した際に行われたが、これまでで見られなかったほど大規模な演習だったことから、当時は大きな軍事的緊張が走った。しかし、これは中国の敵視する蔡英文政権が発足してから6年目で実施されたのに対し、頼政権ではそのスタートと同時に行われたことから、習政権は前政権に対する以上の厳しい圧力を現政権に加えようとする意思と意欲が感じられる。

日本国内でも台湾有事の可能性が頻繁に囁かれているが、これは中国が採る最終手段であり、頼政権になったからといってすぐに発生するものではない。台湾有事が起こるかどうか、いつ起こるかについては専門家の間で様々なシナリオが議論されているが、現実的な予測としては、習政権は「台湾有事未満、蔡英文政権以上」の攻撃的な圧力を頼政権に加えてくるであろう。

冒頭の出来事では、台湾漁船が拿捕され、乗組員が中国に連行されたが、頼政権下では金門島のような台湾離島に対する軍事的圧力が強化され、中国軍が奇襲的に侵攻し、台湾の離島を実効支配する可能性も考えられる。また、中国にいる台湾人の拘束が増えるなど、蔡英文政権時代には見られなかったようなさらなる圧力が加えられることが予想される。今後、具体的にどのような圧力が加えられるかは不明であるが、軍事、経済、外交の各分野で前政権を超える規模の圧力が頼政権に加えられることになるであろう。

◆治安太郎(ちあん・たろう) 国際情勢専門家。各国の政治や経済、社会事情に詳しい。各国の防衛、治安当局者と強いパイプを持ち、日々情報交換や情報共有を行い、対外発信として執筆活動を行う。

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