高齢化と生産年齢人口の減少により、人材不足が加速化する介護現場。その解決策として国が力を入れて来たのが外国人介護スタッフの受け入れだ。しかし、800万人ともいわれる「団塊の世代」が75歳以上の後期高齢者となる「2025年問題」が迫る中、果たして外国人人材は救世主となれるのか。介護分野に特化し、外国人と事業所をつないできた株式会社「オリーヴ」（本社・東京都港区）の鳥居賢一社長に現状や課題を聞いた。
外国人介護スタッフの需要は増加の一方
介護現場の人手不足は避けては通れない問題とあって、国も対策に力を入れてきた。2008年から「EPA」制度で外国人を受け入れ始めると、17年には「技能実習」、在留資格「介護」をスタートさせ、19年には「特定技能」を導入。最近では訪問介護についても、いまは認めていない特定技能や技能実習の人にも枠を広げる方針を打ち出している。
政府は28年度までに介護分野の外国人の受け入れを13万5000人にする目標を掲げており、のんびりしている暇はない。となると、事業者と外国人をつなぐ存在ががより重要になってくる。
オリーヴでは、文部科学省や自治体などの委託を受けて活動しており、これまで1800人を超える外国人を介護の現場に送り込んできた。鳥居さんは「彼らの素晴らしさを1人でも多くの日本人に知っていただき、今後も相互理解を深めていければ」と話す。
会社を立ち上げたのは2017年4月。鳥居さんは大学卒業後、AOKIホールディングスに入社し、店長や新規事業プロジェクト、関連会社の人事部長などを歴任し、店舗経営や人材の採用・教育・人事制度構築に注力してきた。また海外事業も担当しており、人材派遣会社を設立するには、うってつけだったかもしれない。
外国人介護人材は20代の若い世代が中心
そこで、外国人介護人材を採用する最大メリットを聞くと、こんな答えが返って来た。
「日本人では採用が困難な20代が中心ということでしょう。入国当初は基本的な日本語しか会話できないレベルでも数カ月もすると見違えるほど、日本語や介護の仕事の上達が早いことも注目に値します」
比較的男性が多く、地方に行くことをそれほど苦にしないという特徴もあるとのことだが、その前にまず外国人が日本で働くためには在留資格が必要だ。介護職の場合だと、EPA（経済連携協定）、在留資格「介護」、技能実習、特定技能の4つの制度がある。特に現在、受け入れが進んでいるのが技能実習と特定技能とのことだ。
オリーヴでは早くから特定技能を支援するため、ベトナムやインドネシア、カンボジア、ミャンマー、フィリピンなど現地での優良な教育機関と提携。それが優秀な人材の確保につながっている。
「外国人を受け入れるといっても介護施設にはノウハウを持ったところは多くはありません。そこで、うちの会社で外国人人材の教育などを来日前にしっかり行ってから施設に送り出す方が早いと考えました」
利用者の受け止めは
では、20代の外国人スタッフは高齢の利用者にスムーズに受け入れられているのだろうか。鳥居さんは「その点は大丈夫」と太鼓判を押す。
「自分の孫ぐらいの世代の彼らに対して、利用者のみなさまは抵抗なく、笑顔で迎えてくれています。というのも彼らは高齢者の方に寄り添い、言葉の壁を越えた対応で、頼りにされています。その姿を見て、逆に日本人職員がいい刺激を受けているという声を事業者の方からいただいています」
その一方で地域での対応の違いを少なからず感じられるともいう。
「比較的、都市部では外国人スタッフを受け入れていますが、地方に行くと、外国人が少ないこともあってか、不安を感じて受け入れに踏み切れない事業者や地域もあります」
このような課題を解決するには円滑なコミュニケーションが不可欠だ。そのため、オリーヴでは両者の相互理解を深めるために尽力している。
「国も文化も習慣も違う人たちと同じところで働くのですから何かと大変。ですので日本人の職員に向けた研修もさせていただいています。お互いを尊敬し合い、多様性を認め合う職場や地域のコミュニティづくりが大切。そういうサポートをするのも私たちの大事な仕事です」
今後も外国人介護人材は増加していくと予測されている。しかし、足元では円安が続き、途上国の経済発展も進んでいることから今後は日本で働く外国人が減るのではないかという危惧もある。また日本と同じように高齢化が進む中国や韓国との間での人材確保競争が激しくなることも考えられる。
「それらを乗り越え、外国人介護人材が定着するためには在留資格条件の見直しや給与を含めた職場改善が急がれます」と鳥居さんは話す。
「2025年問題」以降も介護の現場では人手不足は続いていきそう。あすは我が身。老いも若きも避けられそうにない問題だ。
▽株式会社「オリーヴ」東京都港区北青山2-12-8 BIZSMART328
電話：03-6868-4732