Infoseek 楽天

「もはや『意地悪』の限度を超えている」座面にコーン設置で、座ることさえ拒否する“意地悪ベンチ”に批判続々 新宿区に真相を聞いた

まいどなニュース 2024年8月14日 11時50分

「意地悪」のレベルを超えたベンチが東京・新宿区にある

 「この写真は新宿区なんだけど、もはや「意地悪」の限度を超えている。以前はこんなふうにソフトコーンがベンチに固定されていなかった。後方の「夜間は会話を控えてください」の立て看板から推測すると、近隣住民からクレームが入った結果だろう。『くつろぐな』『しゃべるな』『休むときはひとりだ』」

 2024年7月14日、フリー編集者・浅原裕久 @asahara1966 さんが、X(旧Twitter)にこんな投稿をした。

 とりあげた写真は、俗に「意地悪ベンチ」と呼ばれるものである。ベンチをあえて肘かけで区切って(あるいはわざわざ肘かけを後づけして)野宿人が横になることができないように「工夫」されていることがこの不名誉な通り名のゆえんだ。その目的とするところから「排除アート」と皮肉られることも多々ある。

 ここ10年くらいのあいだに意地悪ベンチは急速に「普及」し、よくもわるくも目になじんだ。そのなじんだ目にすら異様に映るのは、この意地悪ベンチには肘かけのみならずソフトコーンまで座面に据えつけて、座ることすら拒否するように細工されている点である。だからこそ浅原さんも「もはや『意地悪』の限度を超えている」と評しているのだ。

 本稿執筆時点で当該ポストは250万に近いインプレッションを獲得しており、「いいね」は1万件超、リポストは6000件近くに達している。ネットの反応はおおむね批判的といってよく、利用者のマナーの悪さゆえにこうせざるを得なくなったのではないかと指摘する人は多くはない。それはやはりこの意地悪ベンチの、大きすぎるほどに大きい視覚的インパクトのゆえだと思う。

 ポストのツリーには、この意地悪ベンチの所在も記されている。実際におもむいて状況を確かめてみることにした。

新宿区は、ここでは「絶対に」会話をさせたくない

 くだんの意地悪ベンチは、西武新宿線と山手通りが立体交差する陸橋の真下にある。

 ソフトコーンは、4本の結束バンドによって座面に据えつけられている。簡素だが、それなりに頑丈な工作にはなっていた。ただ、1座につきソフトコーン1本だけという余白の大きいしつらえのせいで、多少浅めに腰かけることになるのさえ厭わなければ、座ること自体は容易である。取材中、そうやって休んでいく人はひっきりなしに続いた。

 その場でソフトコーンの値段を検索してみた。このベンチに据えつけてあるくらいのサイズなら、安いものならば1000円強で買えるようだった。それが2脚のベンチに2本ずつ、計4本。5000円程度といったところだろうか。前出の浅原さんをして「もはや『意地悪』の限度を超えている」と評せしめた「意地悪」は、わりあい安価にできているのだった。

 意地悪ベンチの周囲はピロティとして整備されていて、防災用具を保管するプレハブの小屋がひとつ建っている。足を踏み入れてだれもがすぐに気づくだろうことは「べからず」の多さだ。煙草は吸うな。野宿はするな。球技はするな。壁打ちもするな。スケートボードはするな。夜間は会話するな…。こういうことはよほど気をつけていわなくてはならないものだろうが、いっそ狂気を感じさせるほどの量の禁止看板がある。

 特に「会話禁止」は、目立って多い。「ご遠慮ください」という比較的穏当な文字面のものも含めて、私が数えた限りでは周辺に10枚あった。とにかく新宿区は、利用者にはここでは絶対に会話をさせたくないのだ。

 その意図は、他ならぬ意地悪ベンチからも読み取ることができる。

 意地悪ベンチは、二脚が直列する形で設置されている。

 ポストのツリーにも写真があるので是非とも確認していただきたいが、ソフトコーンは両ベンチの中央から連続する2座に据えつけられている。別ないいかたをするならば、ベンチ2脚・計6座のうち、中央寄り4座は座ることを拒否している。

 腰かける人を減らして静かにさせたいだけなら1座おきにソフトコーンを据えてもいいものを、あえてこのようにしつらえたのはなぜか。理由はひとつしか考えられない。人と人とを可能なかぎり遠ざけて、会話しづらくさせようとしているのだ。私にはこれは、フラットな座面をわざわざ手すりで区切るよりも、区切った座面にソフトコーンを据えるよりも、なお意地の悪いことのように思える。

ソフトコーンを据えつけたのは暫定的措置、と新宿区はいう

 念のため、新宿区道路課に電話で確認してみた。担当者はあっさりと、そういう意図であることを認めた。これは新宿区公認の、人を分断するためのレイアウトなのである。以下、その他の一問一答。

−− ソフトコーンを据えつけた理由と時期は。

「当該箇所が現在の形に整備されたのは2016~2017年。以降、夜間に飲酒したり騒いだりする人が増えた。近隣の住民からの苦情も相次ぐようになった。当初は警察の協力も得ながら監視員が口頭で注意していたが、改善が見られなかった。やむなく2023年の9月からソフトコーンを設置した」

−− その効果はどうだったのか。本気であそこで遊ぼう、騒ごうとする人たちに対して、ソフトコーンを座面に立てたくらいでは効果は薄いように思うのだが。

「数量的なことについては即答できないが、設置以降、苦情やクレームは大きく減った。つまり効果はあったのだと考えている」

−− ベンチを丸ごと撤去するとか、一人用のベンチにすげ替えるといった方策もあったのではないか。

「もちろん撤去したベンチもあり、残したのがあの二脚だ。強調しておきたいのは、ベンチを撤去したのも、残したベンチにソフトコーンを設置したのも、あくまでも暫定的な措置ということだ。区民の福祉や利便と迷惑行為とのかねあいについては区としても苦慮するところである」

−− 「暫定的な措置」ということは、今後の経過観察の次第によってはソフトコーンを取り外したり、あるいはベンチを撤去したり増設したりもありえるのか。

「そのあたりについてはなんともいえない」

−− ネットで批判的に取り上げられていることは承知しているか。

「承知しているし、それに関してマスコミからいくつか問い合わせも来ている。批判を受けて、区としてなにか声明を発表するかどうかは未定である」

※後注:私がぐずぐす脱稿を遅らせている間に、吉住健一新宿区長は「これが最終形では良くないと考えています。今後ベンチの形状や配置について検討したいと考えています」とTV局(FNNプライムオンライン)の取材に答えた。

意地悪ベンチの真上には「意地悪」とは正反対の光景が

 ところで、これは私もまったく知らなかったのだが、意地悪ベンチの真上を走る山手通りは、上りも下りも歩道が非常に広く取られているのだ。

 歩道は、よく手入れされた街路樹によってゆるやかに二分されており、片方は歩行者に、もう片方は自転車通行者に、それぞれ木陰を与えている。同様の設計の歩道は池袋などにもあるが、とてもよく思いやられたつくりだと思う。

 しかしその思いやりが、よりによって意地悪ベンチの真上にあるとは、なんとも皮肉なこととはいえまいか。

 この意地悪ベンチ、半年後〜1年後にはどうなっているだろうか。「これが最終形では良くない」「検討したい」と、晴れて新宿区長直々のお墨つきを得たことでもあり、今後の経過を注視し、機会あればまたレポートをお届けするつもりである。

(まいどなニュース特約・襟川 瑳汀)

この記事の関連ニュース