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「世界一遅い」手こぎ舟の船頭は90歳 近江八幡の水郷めぐり 「健康の秘訣は好きでやってること」今冬引退意向も「琵琶湖守りたい」

まいどなニュース 2024年7月22日 17時0分

 手こぎ舟で滋賀県近江八幡市の水郷地帯を巡る「水郷めぐり」で、90歳で現役を続ける名物船頭さんがいる。近江八幡和船観光協同組合(北之庄町)の橋本将一さん。今冬には引退する意向だが「懐かしい古里の景色や琵琶湖の環境を守りたい」と力を込める。

 舟は心地よくゆらぎ、水面をゆったりと進む。橋本さんは、緑に輝くヨシを指さし「緑色は今年生えた新しいヨシなんだ。これから梅雨の時はグリーン一色できれいですよ」とほほ笑む。水面には県鳥のカイツブリが泳ぎ、真っ白なサギが飛び交う。

 琵琶湖最大の内湖「西の湖」周辺などを約80分で巡る。「急ぎ心がないことがかじ取りのこつ」と説き、お客さんには「この舟は『世界一遅い舟』が売り文句や。今日は急ぐことはないやろ?」と笑いを誘う。「船頭はエンターテイナー。ユーモアもないとあかん」

 近くの同市多賀町出身。子どもの頃は水郷地帯で飛び込んで遊んだ。当時は、陸路よりも水路が発達し、車やリヤカーはなく、農家は舟で米や牛を運んだ。中学卒業後は当時は珍しかった自動車運転免許を取り、大阪の呉服問屋の営業などとして勤務。定年退職後の1995年から29年間、船頭を務めている。

 市内に4業者ある水郷めぐりのうちで「元祖」を名乗る同組合は77年創業。琵琶湖総合開発などの影響でヨシが減り、水質汚染が懸念された中、ヨシの販売業者らが、環境保全を訴えて観光客を乗せたのが始まり。司馬遼太郎の紀行文「街道をゆく 近江散歩」に登場することでも知られる。

 約20人の船頭の平均年齢は70代前半。橋本さんは繁忙期で体調の良い日に出勤しており、4月以降は月に3~5日出勤している。福永栄子理事長は「橋本さんを指名して遠方から来るお客さんもいる。最年長で他の船頭の目標にもなっている」と語る。

 健康の秘訣(ひけつ)は「やっぱり会話と、体動かすことや。あと何より、好きでやっているということ」と胸を張る。

 舟に乗るのは11月まで。来年以降は「体力的に限界やから、次の世代の人に引き継ぐ」としているが、「夏も半天と傘を着てやらなあかん。どこから望遠レンズが撮っているか分からん。この格好は宣伝になる」と意欲的だ。自身の体調を考慮しつつ、今後も客を迎える。

(まいどなニュース/京都新聞)

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