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豊田真由子が解説 「権力闘争に使われるカネ」の具体的事例 旧来の価値観や慣習の根本的変革を

まいどなニュース 2024年8月23日 19時0分

前回、「政治にはカネがかかる」というときに、①権力闘争に使われるカネと、②真っ当な政治活動にかかるカネ、という話があり、両者は分けて論じるべきであること、そしてまずは、なぜ①のようなことが起こるのか、といったことをご説明申し上げました。今回は、その続きで、「政治における権力闘争に、カネが使われる具体的事例」について、考えます。

【ポイント】
「政治とカネ」(1)
<前編>
・国民の政治不信はおさまらない
・「権力闘争に使われるカネ」と「真っ当な政治活動にかかるカネ」
・「カネが幅を利かせる」要因
・なぜ、日本の政治は変われないのか?
<後編>
・権力闘争にカネが使われる具体的事例
・日本で女性総理が誕生してこなかった理由

権力闘争にカネが使われる具体的事例

下記の事例(ⅰ)~(ⅲ)は、カネを「渡す側・受け取る側」の力関係やシチュエーションに違いがあります。「政治とカネ」問題の本質に関わる点でもあるので、少し詳しくご説明したいと思います。

(ⅰ)党の公認や選挙での当選を巡る、同じ党内の争いにおいて、自陣営に引き込むことを意図してカネが配られるケース 

近年では、参院選広島選挙区や東京江東区長選において、現職の衆院議員に公職選挙法違反の有罪判決が出されました。「買収」といっても、よくイメージされる「投票してもらうために有権者にカネを配った」といった話ではなくて、両方とも、同じ党内での熾烈な権力闘争の構図があります。

2019年夏の参院選で、自身の妻を当選させるため、地方議員約100人に選挙運動報酬として現金約2900万円を配ったとして、法務大臣だった衆院議員が、公職選挙法違反で懲役3年の実刑判決を受けました。このときの広島選挙区では、定数2のところに、同じ自民党から、ベテランの現職参院議員と、新人候補である妻がともに立候補し、結果的にベテラン議員は落選し、妻(と野党議員)が当選しました。その選挙においては、自民党は、対野党というよりも、「同じ党の支持基盤や実働部隊となる地方議員等の獲得」を巡って、熾烈な争いが行われたわけです。

また、2023年の江東区長選では、江東区を地盤とする衆院議員が、自身の支援する候補者のために、区議会議員など10人に選挙運動の報酬としてあわせておよそ280万円を提供したり提供を申し込んだりしたなどとして、公職選挙法違反で、懲役2年・執行猶予5年の有罪判決が確定しました。

他の区長候補には、自民党の重鎮地方議員がおり、この地域において先代から続く、同じ党内での勢力争いがあったと言われています。当該衆院議員の父は、元自民党重鎮の衆院議員でしたが、父子ともいろいろな経緯があり、子である衆院議員は、野党から苦労して自民党に移ってきたという経緯がありました。その意味では、この地域においては、衆院選も区長選も、長きに渡る保守分裂、党内の争いがあり、なんとかそれに勝たねばならないという焦りが、こうした事態を招いたのではないかと推察されました。

世の中で『選挙』というと、「公示後の与野党対決」と思われていることが多いと思いますが、本当に熾烈でドロドロしておそろしいのは、実は、同じ党内で、公認候補を決めるときや、分裂して候補者が複数出るときの戦いです。

国政選挙でも知事選等の首長選でも、同じ党において、党本部と都道府県連と地域支部で、思惑や支援候補が一致せず、激しい対立が起こり、結果として分裂選挙になる、といったことも、本当によくあります。そして、無事公認を得て、努力して当選しても、その後も党内外の様々な陰謀で引きずり降ろされたりしますので、政治の世界は、本当に気の休まるときがありません。

特に与党の場合は、当選したら即、権力の側の一員になるので、そのポストを巡っては、血みどろの争いの度合いが高まることになります。

・・・まさに『自民党の敵は自民党』です。

(ⅱ)(どの世界にもあると思いますが)権力闘争で勝ち抜くために仲間・子分を作る、というケース

昔から、政治におけるウェットな人間関係、絆や忠誠心の強さはよく語られるところです。新人議員が、どの派閥に入るか、誰を親分とするかは、例えば、「その人に見出されて、出馬した」、「(世襲の場合)自分の親の仲間だった」、「当選後、熱心に声をかけられた」などいろいろありますが、いずれにしても、親分は子分の『面倒を見る』ものとされてきました。

『面倒を見る』というのは、後ろ盾になる、各種相談事に乗る、ポストやカネを差配する、といったことになるわけですが、イメージで言うと、政治の世界は、常に“殺るか殺られるか”の戦国の世で、そこで、それぞれの武将(個々の議員)の地位や命、一族・家臣、領地・領民(※あくまでも、イメージとして、戦国の世の用語を用いればということです)等を守ってもらえるかどうか、ということになります。

そこでの「御恩と奉公」の「御恩」は、昔で言えば、「土地」だったわけですが、それが今は「カネ」になっているということなのだと思います。(「カネでつながる人間関係」という意味ではもちろんありません。)

問題となった「派閥」も、基本的にはこうした構造がベースにあり、「大将の下に仲間・子分が集まり、結束して党内のパワーバランスに勝ち抜き、各種ポストを取り、大将を総裁に押し上げる。一方所属議員は、派閥に、相談事や各種ポストへの推薦、財政的なサポート等をしてもらう」といった形で、厳しい乱世における議員の強力な拠り所として機能してきました。無論、種々指摘されている通り、派閥には大きな弊害もありました。

どの世界にも出世競争・権力闘争というのはあると思いますが、やはり政治においては、権力とカネの規模の大きさ、プロセスの不透明性、そして、そこに集う方々の特性等もあり、すさまじいまでの権力への執着と、それらが激しくぶつかり合うおそろしいマグマと深い闇を、(遠巻きながら)あちこちで感じました。

(ⅲ)国会議員や候補者が、地元有力者たちから“みかじめ料”としてカネを要求される、というケース

国政選挙の候補者が、世襲や強力な後ろ盾を持たない新人の場合によくあることなのですが、地元の首長や地方議員等の有力者から、「カネを払わないと、邪魔される、苛烈ないじめを受ける」、いわば“ヤクザのみかじめ料”のように要求されるおカネがあります。そういう新人は、数十年君臨する有力者がたくさんいる地元政界のヒエラルキーでは、最下層の“いじめられっこ”です。

この“みかじめ料”を払わないと、どういうことになるか、実例をご紹介します。

選挙のたびにいろいろな地域での軋轢がニュースになりますが、実際、わたくし自身も、2012年に公募を経て、なんの後ろ盾も無い、地元にも縁の無かった落下傘候補として、地元関係者に初めて挨拶回りに行った際、いきなり「応援してほしかったら、まず、金を持ってこい」と言われ、びっくり仰天したことがあります。

私はそれまで、霞ヶ関で法律を作る仕事に従事してきていたので、「それは違法なことですので、できません」と、本当に素直な気持ちでお断りしたところ、「カネも持って来ないお前を応援して、一体俺たちになんの得があるんだ?」と激怒され、以降、その地域支部では「あいつを応援するな!」の大号令がかかり、悪評を立てられる、ポスター(選挙ポスターではなく、常日頃地元のあちこちを自分で回ってお願いして貼らせていただいたポスター)をはがされる、さらには、階段から突き落とされて骨折する、といった数々の妨害行為に遭うことになりました。

お恥ずかしながら、当時の私は本当に世間知らずで、それまでの人生で、そういう発想や行動をする方々を見たことがなかったので、訳が分からず、「きっとまだ自分の努力が足りないんだ。誠心誠意、がんばれば、きっと認めていただける」と考え、どんなに苛められても平身低頭、必死で地元を駆けずり回り、国会では政策作りに奔走していました。

しかしながら、「その方達は、ご自身か、ご自身の推す方を議員にしたいと望んでおり、同じ党の一つしかない公認候補をを巡る権力闘争なのだから、私がどうがんばったところで、認めてもらえるようなものではなく、なんとしてでも『私がいなくなること』を望んでいるだけだったのだ。」と分かったのは、すべてが壊れ、崩れて終わった後のことでした。(詳しくは、「選挙と政治のリアル 前編:自民党の敵は自民党、後編:騒動の裏に隠された真実とは」を参照)

残念ながら、こうしたことは、私の地元に限らず、程度の差はあれ、全国各地で繰り広げられており、候補者や議員は、国や国民のための大事な仕事とは全く関係の無い、こうしたドロドロの闘いに心身を擦り減らし、時間や労力を削り取られてしまっています。こんなことではなく、皆で力を合わせて国や地域のために働くことができれば、国民にとっても、どれだけかよいだろうにと思います。(もちろん、そんな方ばかりではなく、真摯に地域のことを考え、熱心に応援くださる方も大勢いたことは申し添えます。)

なお、国会議員が、地元市町村の党支部等へ党勢拡大等のための活動費を支払うことは、必要だと思いますし、私もそれは毎年きちんとお支払いして双方の収支報告書にきちんと載せていました。一方で、そうではない“裏でやり取りされる多額のカネ”を、なんとかしないことには、「カネのかからない政治」「公正でクリーンな政治」は実現しようがないだろうと思います。

このほかにも、「政治とカネ」を巡っては、様々なケースがありますが、字数の関係と、そして、諸般の事情とから、このくらいにしておきたいと思います。

日本で女性総理が誕生してこなかった理由

私は、日本に女性総理が誕生してこなかった大きな理由として、(そもそもの「政治におけるジェンダーバランスの問題」といった論点はもちろんあるのですが)、「これまでの自民党総裁が選ばれる力学・方法」においては、「こうしたドロドロの世界で、権力への強烈な志向に基づいて、潤沢な資金を使って、長い時間をかけて、大勢の仲間・子分を作り、戦い抜く」ということが、基本的に絶対に必要で、となると、一般論として、女性はあまりそういう傾向を持たず、そういったアクションを実行しない・好まないという中で、てっぺんに昇り詰めることが事実上難しかったということが、あると思います。

今のご時世、特に「ジェンダーの違い」について述べることには慎重さが必要ですが、上記のような帰結は、私自身が権力欲というものを持たない(人の役に立つ仕事をしたいだけ)ことや、政治の現場で女性の先輩方を見ていての、実際の経験に基づく実感としてありますし、また実際に、「女性は、男性ほど権力志向が強くない、権力の行使によって影響を及ぼすやり方や上下関係を好まない、他者を支配することにあまり興味がなく、権力を得るために行動することが少ない」といったことについての研究結果が、多く示されています(例:米スタンフォード大のジェフェリー・フェファー教授、同エレノア・エモンズ・マコービー教授、ジョージワシントン大のリン・オファーマン教授、ハーバード大のデイビッド・マクレランド教授等)。

前稿と本稿では、「政治とカネ」とは、どういうことなのか、なぜ、そうしたことが起こるのか、について、「権力闘争とカネ」にフォーカスして見てみました。次回は、では、一体なにをどう変えていったら、状況が改善するのか、について考えてみたいと思います。

◆豊田 真由子 1974年生まれ、千葉県船橋市出身。東京大学法学部を卒業後、厚生労働省に入省。ハーバード大学大学院へ国費留学、理学修士号(公衆衛生学)を取得。 医療、介護、福祉、保育、戦没者援護等、幅広い政策立案を担当し、金融庁にも出向。2009年、在ジュネーブ国際機関日本政府代表部一等書記官として、新型インフルエンザパンデミックにWHOとともに対処した。衆議院議員2期、文部科学大臣政務官、オリンピック・パラリンピック大臣政務官などを務めた。

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