大手アパレル企業で正社員として働くAさんは、入社2年目を迎えてようやく仕事に慣れてきました。時間がかかっていた作業を以前よりも短時間で終えられるようになり、仕事後の時間を利用してピラティスに通えるほどの余裕も出てきています。
そんなある日、Aさんが勤めている店舗に新しい店長・Bさんが配属されました。BさんはAさんよりも5つ年上の女性で、これまでも色々な店舗で成果をあげてきたと社内で噂されています。
実際にBさんが店長になり1カ月ほど経ち、来店するお客様が増えはじめ、売上も徐々に増加していました。しかし嬉しいことばかりではありません。というのも、Aさんは定時直前にBさんから仕事を指示されることが増えたからです。Aさんが指示された仕事をいつまでにやればいいか聞くと、Bさんは決まって「急ぎでよろしく」と言うため、Aさんは仕方なく残業をして仕事をこなしていました。
Bさんは他のスタッフには仕事を頼まず、Aさんにだけ仕事を頼んでくるので、Aさんは自分へのいじめではないかと疑い始めます。しかしAさんはBさんに対していじめをされるようなことはしていません。そもそも、このような定時直前の仕事の指示にAさんは従わなければいけないのでしょうか。社会保険労務士法人こころ社労士事務所の香川昌彦さんに詳しく聞いてみました。
ーAさんは残業を断ることができるのでしょうか
まずパートや契約社員といった非正規雇用か、正社員かどうかで答えが変わってきます。正社員の場合、労働契約や就業規則で残業を義務付けられていれば、正当な理由がない場合は、原則として残業を拒否することはできません。正当な理由がないにもかかわらず残業を拒否し続けると、会社から懲戒処分が下される場合もあります。ただし、体調不良や介護や妊娠などの正当な理由があれば、拒否しても構いません。
ただしAさんのケースのように、毎日突発的な残業を指示してくる場合は、残業の正当性が認められないこともあります。
ー上司が残業を指示するための条件はどのようなものですか
今回のケースでいうと、残業の指示に客観的合理性や社会的相当性があるかという点がポイントになってくるでしょう。つまり、Bさんが定時直前に伝えてくる仕事内容が、突発的なトラブル対応など業務上必要であると合理的に考えられるのであれば、残業の指示は可能です。
また毎日のように残業が発生するのであれば、前もってAさんに伝えておくべきではないかと考えます。Bさんは前もって伝えることもなく、合理的な理由も説明していないことから、残業指示に合理性はないと判断される可能性が高いでしょう。
ーAさんはいじめを疑っていますが、どのように対処したらいいでしょうか
Aさんにだけ、合理的な理由もないのに毎日のように残業を指示しているのであれば、パワハラだと思われても仕方がありません。可能であれば、AさんはまずBさんに「この仕事の指示はいじめではないか?」と確認を取るといいでしょう。とはいえ実際、本人に直接伝えるのは困難ですから、Bさんの上司に相談するのが良いかと思います。もしくは会社が設置しているハラスメント相談窓口に相談しましょう。
◆香川昌彦(かがわ・まさひこ)社会保険労務士 大阪府茨木市を拠点に「良い職場環境作りの専門家」として活動。ラーメン愛好家としても知られ、「#ラーメン社労士」での投稿が人気。
(まいどなニュース特約・長澤 芳子)