「お受験」、それは幼い子どもだけでなく、親にとっても試練の連続。しかし、その試練がどこか奇妙で、思わず苦笑いしてしまうようなものだったとしたら、どうでしょうか。Sさんが遭遇したのは、まさにそんな「ありえない」エピソードでした。
健康診断書の費用に驚愕
海外生活が長かった共働きのSさん夫妻、またいつ夫の海外赴任があるかわかりません。来年小学校入学を控える長女を、海外赴任に理解がある私立小学校へ入学させたほうがいいと考えSさん夫妻は「お受験」に挑むことにしました。
初めての小学校受験。一般的に受験塾への入塾は遅くとも試験の1年前、つまり年中の秋ごろといわれています。しかし、周りではお受験をする人も少なく、Sさん夫妻が入塾を決めたのは、長女が年長の春でした。
慣れない塾生活と家庭では縄跳びや運動の練習、ペーパーテスト対策は1日60枚もの問題をこなします。夏には学校別模擬テストが始まり、面接や体操、行動観察でのふるまいの練習もあり、駆けずり回りました。夏が過ぎ、出願に向けた最初の関門は、受験のために必要な健康診断書の取得です。Sさんはかかりつけ医にお願いして健康診断書を作成してもらうことにしました。
そこでSさんは、驚きます。健康診断書を書いてもらうのに、その費用は1件あたり6000円。ちょっと高いと感じましたが、仕方ありません。
受験予定の学校が4校あったため、それぞれの学校用に追加で健康診断書を作成してもらうことになりました。追加料金は1校あたり3000円。合計で15000円の出費です。すでに痛い出費でしたが、これで安心して出願できると思っていたのです。
ところが、後日、受験予定の学校のひとつが、特定の用紙を指定していることが発覚。指定された用紙での再作成には、再び6000円の作成料がかかりました。この時点で、合計21000円も健康診断書となりました。
厚紙を求めて、文具探しの旅
次の驚きは、出願用紙の「厚紙指定」でした。学校のホームページからダウンロードできる願書ですが、その用紙にはなんと「厚紙160g/㎡」という指定が。「なんで普通のコピー用紙ではダメなの?」合理性を重んじるSさんは理解に苦しみました。
半信半疑で近所の文具店を訪れたものの、取り扱いがありません。焦るSさんの頭に浮かんだのは、銀座にある某・老舗文房具専門店。ここしかないと決断し、わざわざ銀座まで足を運ぶことにしました。
無事に目当ての厚紙を手に入れたものの、驚いたのはその価格。50枚入りで2500円。しかも、必要なのはたったの1枚なのに…まるで「厚紙の罠」に引っかかったかのような気分です。
やっと自宅に戻り、厚紙をプリンターに入れて印刷を試みましたが、厚すぎる紙は自宅用のプリンターで印刷することはできませんでした。
さらに、出願用の書類を郵送する封筒は、Sさんは無難に茶封筒で良いと思っていました。しかし、後から聞いた話で、「暗黙の了解」とされている封筒が存在するというのです。ふたたび銀座の老舗文房具専門店に問い合わせると、「〇〇小学校の出願用の専用封筒がございます」とのこと。これには、思わずため息が出ました。「見た目も大事」ですが、封筒については学校からの指定はなかったのに、お受験界隈には「暗黙の了解」があったなんて。ここまで来ると、何かの別の試験を受けている気分です。
これだけの準備をして、願書を提出したとしても、倍率の高い人気私立小学校なので、ご縁がないことも当然あります。ふと頭をよぎったのは、もし不合格だった場合、この厚紙の願書や家族写真は一体どうなるのだろう?ということ。シュレッダーされ捨てられてしまうのか、それとも何か別の用途に使われるのか…なんとも言えないもやもやがSさんを襲いました。
出願の際に感じた 理不尽なこと・不合理なことは
受験の出願の際に感じた 理不尽なこと・不合理なことはありますか? 保護者たちに聞きました。
▼30代・千葉県・女性
息子の小学校受験のために、小学校の願書を準備するのですが、ある志望校は「郵送もネットもダメ、直接来てください」というアナログっぷり。さらには「番号が早いほど有利らしい」という噂を耳にして、早朝から並びました。学校に着いたら、案の定の長蛇の列。「ああ、やっぱりみんな考えることは一緒か」とちょっとげんなりしつつ、耐えて並びました。1時間半くらいは待ったでしょうか。その間も気が抜けませんでした。だって、もしかして「待ってる姿勢までチェックされてるんじゃないか?」なんて不安がよぎり、姿勢をピンとしてました。会社を休んで、早朝から列に並び、姿勢も気にしながら1時間半…。正直、疲れました。願書を一枚手に入れるだけでここまで大変だとは。
▼40代・神奈川県・男性
昨年、息子の小学校受験で、ある私立小学校に出願することになりました。その学校は非常に厳しいことで有名で、出願書類にも細かいルールがありました。特に驚いたのは、書類の記入が全て親の手書きでなければならないという点です。
最初は簡単だろうと思っていたのですが、書き始めてすぐにその難しさに気付きました。いつもパソコンを使っているので、手書きということに慣れておらず、書き始めると震える手。漢字も忘れていたりして、横にスマホをおいて漢字を確認しながら書きました。ほんの少しの誤字や修正も許されず、間違えたら最初から書き直さなければならないというプレッシャーがありました。何度も何度も書き直しているうちに、手が疲れてしまい、正直ストレスが溜まりました。慎重に書き、ようやく書類が完成したときは、朝の4時でした。
▼40代・東京都・女性
娘が受験をしました。一部の学校では、公式には推薦状を求めていないにもかかわらず、実際には「有力者からの推薦状」が合否に影響を与えるという噂が立つことがあります。そのために、親が知り合いやコネを駆使して推薦状を集めることに奔走し、結局は「関係者」の力が試験の結果を左右するような世界です。願書出願の時も、「ここはこう書いたほうがいい」とか「これはこうしないといけない」と塾から色々言われて、「そこまで学校はみてる?」と思う反面、ささいなことで落ちたら嫌だという気持ちがあり、全部従いました。
(まいどなニュース特約・松波 穂乃圭)