自民党総裁選が12日スタートしました。27日の投開票まで舌戦が繰り広げられ、岸田文雄首相の後継が決まります。立候補を届け出た9人のうち、小林鷹之、林芳正、上川陽子、茂木敏充の4氏(届け出順)がハーバード大ケネディスクールの出身という共通点があります。ハーバード大ケネディスクールとはどのような機関なのか、どんな研究をするのか。OBの一人に聞きました。
話を伺ったのは経済産業省勤務の経験があり、現在はシンクタンクや人材育成を行う企業「青山社中」(東京都港区)のCEO朝比奈一郎さん(51)です。
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-朝比奈さんはいつからいつまでケネディスクールにおられましたか?
朝比奈一郎さん 2001年9月から2003年6月です。
-そもそもケネディスクールとはどういう機関なのでしょうか?
朝比奈さん ハーバード大にはロースクールやメディカルスクールなどいくつか専門職大学院があります。ケネディスクールもその一つです。「行政大学院」と訳されることも多いです。
-なぜ「ケネディスクール」というのですか。ケネディ元大統領ゆかりなんですか。
朝比奈さん ジョン・F・ケネディ元大統領はハーバード大のOBですが、行政大学院の卒業生ではないです。モニュメンタル(記念碑的な)意味でしょう。「国家が自分のために何をしてくれるかではなく、自分が国家のために何ができるかを問え」。ケネディ元大統領の有名な演説ですが、ケネディスクールにも同様に「自分が何ができるかを問え(Ask what you can do)」という標語が掲げられていました。
-2001年9月の入学というと米同時多発テロのころですね?
朝比奈さん ちょうど9月11日が入学の日でした。日中の予定はすぐ中止になりましたが、夕方からの入学者歓迎会は予定通り行われ、学院長を務めていたジョセフ・ナイのしゃべっていたことが印象的でした。
-ジョセフ・ナイ氏といえば「ソフト・パワー」という概念を説いた国際政治学者です。
朝比奈さん はい。テロを受けてかどうかは分かりませんが、ナイ学院長が「君たちはこの世界をよくするためにここに来たんだ」と言うんです。ここは「公共政策の士官学校だ」という感じの印象を持ちました。
-そのような大学院だと、世界中から留学生が集まりそうです。
朝比奈さん そうですね。ケネディスクールにはいくつかコースがあるのですが、中に「ミッドキャリア」という1年間のコースがあります。そのコースにはアジアやアフリカ、中南米などの要職経験者が在籍していました。母国で副大統領をやったという人もいました。
-どんなことを学ぶのですか?
朝比奈さん 安全保障や社会保障、マクロ経済なども学びます。しかし、リーダーシップ論や組織マネジメント、ネゴシエーション(交渉術)なども同時に学ぶのです。日本にも東京大学や京都大学をはじめ各地の大学に「公共政策大学院」がありますが、日本の大学ではリーダーシップ論やネゴシエーションはあまりやらないでしょう。ケネディスクールの特徴だと思います。
-留学当時、どれくらいの日本人学生がいましたか?
朝比奈さん 私がいたころ、さまざまなコースを合わせて1学年で15人くらいの日本人留学生がいました。一時期、1学年あたりの日本人合格者が5人くらいまで落ち込んだことがありましたが、現在はもう少し多いようです。
-ケネディスクールには日本の同窓会があるそうですね。
朝比奈さん はい。会長が総裁選に立候補した林芳正衆院議員です。僕も3人いる理事のうちの1人です。
-朝比奈さんと同時期に小林鷹之衆院議員も留学していたと聞きました。
朝比奈さん 僕は経済産業省から、彼は財務省から来ていました。今と変わらない誠実でまじめな青年でしたよ。私が現地で結婚式を挙げたときには余興を引き受けてくれました。
-9人の総裁候補のうち4人がケネディスクール出身者です。OBたちにはどんなことを期待しますか?
朝比奈さん リーダーシップを発揮してほしいですね。日本で「リーダー」は「指導者」とされ必ず部下がいて「神輿に乗る」ようなイメージで解釈されています。私は「始動者」であるべきだと思っています。
例えば、米国のキング牧師は最初から地位や組織を持っていたわけではなかった。「黒人差別はおかしいよね。変えていかなきゃ」と自分を奮い立たせて動いた。すると、だんだんほかの人が付いてくる。リーダーシップはそういうイメージなんです。リーダーシップを発揮して日本を変革してほしいです。
-自民党総裁選だけでなく、野党第1党の立憲民主党代表選も行われています。新たな党首たちに期待することは?
朝比奈さん 日本全体が厳しい時代です。GDP(国内総生産)はドイツに抜かれ、1人あたりGDPでもイタリアに抜かれました。ある意味、日本は世界中でどんどん貧しくなっています。霞ケ関の官僚も頑張っているんだけれど、財政が良くなるわけではなく、少子高齢化が良くなるわけではない。大胆な提案や論戦を通じ、このダウントレンド(下落傾向)の基調から日本を変える機会にしてほしいですね。
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自民党総裁選は届け出順に、高市早苗、小林鷹之、林芳正、小泉進次郎、上川陽子、加藤勝信、河野太郎、石破茂、茂木敏充の9氏が立候補している。
(まいどなニュース/京都新聞・浅井 佳穂)