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「米農家さんは本当に減ってるんだな」靴下専門店が奈良での事業拡大で感じた“複雑な気持ち”…15年間で水田が減って増えたのは?

まいどなニュース 2024年10月24日 6時50分

「米農家さんは本当に減ってるんだな……というのがわかるのは、弊社の綿花畑が大きくなって行ってるから」。そうXに投稿したのは農家ではなく、靴下専門店「Tabio 靴下屋」の公式アカウント。農業を取り巻く現状について投稿した背景について同社と広陵町に取材しました。

そのように実感した理由は、「弊社の綿花畑は奈良県の休耕田を活用している。農地は放置するとすぐにダメになる。だから綿花を作ろうという活動。で、その農地候補が増えるという事はそういう事。そこは複雑な気持ちです」と語っています。

本来であれば事業拡大は喜ばしいことですが、以前からあった“田んぼ”が少なくなっていて、ジレンマを感じているのでしょう。実際、農林水産省の統計では全国的に主食用米の作付け面積が減っていること、奈良県による統計も水稲作付面積が減少傾向であるとしています。

同店を運営するタビオ株式会社(以下、タビオ)に、綿花栽培を開始した背景、農業に携わることでの気づきなどをタビオの広報担当者にたずねました。

田んぼ約4枚分から国内最大級の規模に

創業者である越智直正さん(2022年没)の長年の夢として、「世界最高の靴下をつくるため、メイドインジャパンにこだわり、原糸(綿花)も国内で最高品種を栽培したい」の思いをもとに2009年から靴下の生産量日本一の奈良県北葛城郡広陵町で綿花栽培を開始したタビオ。

「その際に、広陵町からシルバー人材センターの活用についての協力を求められました。ちょうど休耕田が増えているという話も耳にしていましたので、それなら休耕田を使って綿花栽培をしたいと要望し、始めることとなりました。みなさまの反応を拝見していると、生まれ育った土地での『やりがい作り』へも寄与できていると感じています」。その結果、収穫した綿花で2011年に商品化することができました。

2009年当時は作付面積は40アール(田んぼ約4枚分)でしたが、「ほぼ0%の綿の国内自給率を、タビオの綿花畑からまずは1%へ」という目標を掲げて作付面積を増やすうちに、今や約5ヘクタール(約東京ドーム1つ分)にまで広がり、綿花畑としては国内最大級の規模になったそうです。

現在、栽培のために契約している休耕田は約33カ所ですが、休耕田を使ってほしいという相談が絶えず寄せられているとのこと。地域の休耕田の増加だけでなく、取り組みが地元の人に浸透していることもうかがえます。

ただ休耕田がすべて同社の綿花栽培など農作物の栽培につながるわけではなく、宅地分譲される場合も多いとのこと。一旦休耕田となり、同社によって綿花が栽培されるようになった土地で再び稲作に戻ったところは1件だけ、ほとんどは宅地分譲となるそうです。田んぼが宅地となっていくことで、風景や自然環境も変化しているのではないでしょうか。

「奈良県で綿花栽培が少しずつですが復活」

水田は減りつつも、奈良県全体として農業の盛り上がりを感じさせる一面も。「奈良県では江戸時代以前の元亀・天正頃(安土桃山時代)から綿花栽培が始まり、18世紀以降衰退し、途絶えてしまっていました。しかし、近年は、弊社の取り組み以外にも、奈良県で少しずつですが綿花栽培が復活してきています」。

ただ、同社の綿花栽培への挑戦は、簡単ではありませんでした。「その育成の半分以上は虫との戦いでした」と振り返ります。

無農薬での栽培にこだわり、害虫から綿花を守るために試行錯誤し、「撃退するより共存へ」という考えに。「綿花を雑草と共生させることで、雑草に害虫を誘導し、綿花が害虫に耐えられるまでに成長するのを待って、草刈を実施しています。利益を出して商業的に生産するのであれば、ここはおとなしく農薬を使うべきですが、私たちは、できるだけこだわって栽培を行いたいため、この手法を取り入れています」

農薬のほか化学肥料や収穫時の枯葉剤も使わずオーガニック農法での栽培を行っているものの、「近隣の畑や田んぼでは農薬が使われているため、オーガニックコットンとは謳っていません」。周囲の農家と折り合いをつけつつ、理想の綿花栽培を追求しているようです。

もともとは「世界最高の靴下をつくりたい」という思いから始まった綿花栽培。広陵町で腰を据えて綿花を育てることで、休耕田の増加に加え、害虫対策といった農業の大変さ、そして、新しい農業の兆しも感じ取っているようです。

「2023年は、ふるさと納税寄付額は約200万円」

綿花栽培が行われている広陵町の地域振興部 農業振興課にも取材しました。

同社の綿花畑増加については、「本町でも有数の靴下事業者であるタビオ奈良株式会社の農業への参入により、一部耕作放棄地の解消ができ、また、中長期的に安定した農業経営が可能となる企業体による担い手確保が実現しました」と、休耕田が活用できる、地域に根付いた取り組みだと考えられているようです。

さらに、靴下の生産量全国1位で「靴下のまち」として知られる広陵町では、同社が農薬などを使わずに生産した「広陵綿」の靴下製品をふるさと納税返礼品に活用。「2023年度は、タビオによる綿花を使用した靴下で、ふるさと納税寄付額は約200万円となっており、町の農業・産業のPR商品として活躍しております」。

綿花畑のほかに、「耕作放棄地や耕作放棄地化が予想される農地は、地域の農業団体が小麦や米粉用米・飼料用米の栽培で活用されることが多いです」とのこと。水稲栽培が行われなくなった土地が荒れてしまわないために試行錯誤していることがうかがえました。

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「タビオが育てた綿花を使って、履きやすい靴下なども作っております」とSNS担当「1号」さん。広陵町で育った綿花は「【長場雄×NAIGAI×Tabio】SOCK SUN片手で履けるくつした」や「TABIO’S COTTON」シリーズの靴下や腹巻に使用されています。

(まいどなニュース/Lmaga.jpニュース特約・谷町 邦子)

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