秋になり、紅葉を見るためにAさんは家族を連れて車で出かけます。久々の家族での外出にAさんの妻も子どもたちも嬉しそうです。慣れない土地を目的地に向かって移動していると、突然、笛の音が聞こえてきます。Aさんが音がした方に目を向けると、そこには警察官の姿がありました。Aさんが車を停め窓を開けると「この道は一方通行です」と警察官に指摘されました。
普段から安全運転を心がけており、今まで一度も交通違反をしたことのなかったAさんは憤り「どこに標識があったのですか?」と警察官に聞きます。すると「あそこにあります」と警察官が指差した先には、確かに一方通行の道路標識がありました。ただ枝葉の茂っている木のせいで、Aさんには全く見えなかったのです。
Aさんは事情を伝えましたが、警察官の判断は変わりません。道路標識が見えなかった場合でも交通違反になるのでしょうか。まこと法律事務所の北村真一さんに聞きました。
ーAさんのケースでは、交通違反となってしまうのでしょうか
道路標識の状況によっては、違反とならない場合があります。道路交通法施行令1条の2第1項では「歩行者、車両または路面電車がその前方から見やすいように、かつ、道路又は交通の状況に応じ必要と認める数のもの」と定められています。
もし道路標識が走行中の車からきちんと認識できない状況になっていれば、この道路交通法施行令に違反していることになります。
ただ運転していた人が「道路標識が見えにくいと感じた」や「そんなところに道路標識があるなんて知らなかった」というレベルであれば、主張が認められることはないでしょう。
Aさんの場合、客観的に道路標識が見えなかったことが明らかになれば、交通違反とは取り扱われない可能性があります。
ー客観的に道路標識が見えなかったと証明するにはどうしたらいいのでしょうか
例えば短期間で同様の違反が取り締まられている場合は、道路標識が機能していないと考えられます。またドライブレコーダーで撮影した情報があれば、道路標識が見えなかったことを証明できるでしょう。
過去の判例を調べてみると1968年(昭和43年)12月17日に最高裁判所での判決で、道路標識の設置方法が適切でないため、適法かつ有効な規制がなされていないと判断されたものがあります。
Aさんが道路標識が樹木に隠れて見えなかったことを証明するには、ドライブレコーダーの映像を確認するか、映像がなければすぐに写真に収めるなどして証拠を残しておくといいでしょう。
◆北村真一(きたむら・しんいち)弁護士 「きたべん」の愛称で大阪府茨木市で知らない人がいないといわれる大人気ローカル弁護士。猫探しからM&Aまで幅広く取り扱う。
(まいどなニュース特約・長澤 芳子)