少子化対策や働きやすさ改革を進めるため、女性だけでなく男性にも育児休業の取得が推奨され、多くの企業で実際に男性が育休を取得するケースが増えています。
男性育休に対しては、「子どもの成長を身近に感じられた」「夫婦で育児の認識を共有できた」「部下の育児への理解が深まった」など、前向きな声が多い一方で、「夫が育休を取ったのはむしろ逆効果だった」という意見も徐々に聞かれるようになっています。
Aさん(関東在住、30代、会社員/育児休業中)は、夫の育休を経験して、「もう夫には二度と育休を取らせたくない。むしろ2人目の子どもなんて考えられない」といった心境になっているそうです。
「育休」=「ご褒美」だと思ってる!?
Aさんが第一子を妊娠したのは、結婚して2年、新卒で入社した会社に勤めてから8年目の時でした。
職場には何人か出産経験のある女子先輩社員がいたこともあり、復帰後の働き方も早くからイメージできていたAさん、元々は育休にあまり不安を感じていませんでした。
出産時には電車で1時間ほどの距離にある首都圏近郊の実家に里帰りし、1カ月ほどで夫と住むマンションに戻る予定でした。
ある日、別の会社に勤める夫が、あと2カ月で産休に入るというタイミングでこんなことを言い出しました。
「そういえば、今日上司に『もうすぐ子ども生まれるんですよ』って言ったら、育児休業取らないの?って言われたんだよね。男性の育児休業取得率向上目標があるらしくて、勧められたから取ることにするわ! しかも夫婦で取得すると1歳2カ月までOKなんだって!」
今まで全く興味を示してこなかった夫が急に育休を取るようになったことに驚きつつも、初めての育児を夫婦で一緒にできることを喜んでいたAさん。しかし、次の夫の言葉に愕然とします。
「せっかくの育休だから、資格取得のために通信講座を受けようと思うんだよね。普段は仕事が忙しくてそれどころじゃなかったけど、せっかく休みになるし。それから、長めの旅行に行くのもいいと思わない?」
ウキウキと話す夫にAさんはびっくり。思わず「なんのための育休だと思ってるの!?」と大声を出してしまいました。
夫も育休を取った1カ月間の生活は
時期的に産院を変更することもできないため、結局里帰りから帰宅後の1カ月間だけ夫も育休を取り、2人で赤ちゃんとの生活に慣れる計画になりましたが、実際に3人の生活が始まると「意識」の違いが浮き彫りに。
入浴のタイミングなのに「これからオンライン会議があるから」と手伝ってくれなかったり、病院への検診に行く日に限って「この飲み会だけは参加しておきたい」と出かけてしまったり。少しでも体力回復に努めようと赤ちゃんの睡眠のタイミングに合わせて仮眠をとるAさんを「お昼ご飯どうする?」と起こしたこともありました。
最後の1週間は我慢も限界で、思わす「もう会社に行って!余計にこっちの仕事が増える!」と怒鳴ってしまったそうです。
育休を取得するなら「自分ごと」として育児に取り組まないと、返って夫婦の信頼に亀裂を入れてしまう結果になってしまうかもしれません…。
若年層の育休取得意向は男女ともに高い
厚生労働省の調査では、若年層の87.7%が育休取得を希望し、男性も84.3%が取得意向を示しています。さらに、男性の29.2%は半年以上の育休を希望しており、性別に関係なく、仕事と育児を両立したいという意識は広がっています。
これからは、制度の浸透だけでなく、育休を夫婦で「取ってよかった」と思えるような啓蒙活動も重要かもしれません。
【参考】
▽厚生労働省/「若年層における育児休業等取得に対する意識調査」
◆沼田 絵美(ぬまた・えみ)人材業界や大学キャリアセンター相談業務などに20年以上携わる国家資格キャリアコンサルタント。