曲げない、曲がらない、曲がってたまるものか。抗い続けた果てに辿り着いたメジャーデビューだ。
結成12年目で名門からメジャー
結成12年目にしての大きな通過点。名古屋発の2ピースバンド・鈴木実貴子ズがメジャーデビューシングル『違和感と窮屈』を、フォーク&ニューミュージックレーベルの名門PANAMから配信リリースした。
作詞・作曲・ボーカルギターの鈴木実貴子(35)とドラムスのズ(37)からなる、2人組バンド。2012年に結成し、大型フェスにも出演。2023年末から芸能大手のホリプロに所属した。
PANAMは日本クラウン内のレーベルで、南こうせつ、イルカ、ムーンライダーズらの作品をリリースしてきた名門。女性ボーカリストが同レーベルからデビューするのは約10年ぶり。鈴木実貴子ズはすでにニッポン放送の“優秀新人”に選出され、デビュー曲『違和感と窮屈』も文化放送やBAYFMのパワープレイに選ばれている。
レーベル担当者は「鈴木実貴子ズの音楽は、アーティストの魂をそのままぶつけられている感覚で、歌声がストレートに感じられる“令和版フォークミュージック”。間違いなく、次世代の表現者になれる」と賛辞を惜しまない。
全部クソ喰らえ!でここまで
インディーズで様々な楽曲を生み出し、力の限り奏でてきた実力派の二人は、それら華々しい言葉にも一切踊らされない。“メジャーに行って変わっちゃった”的ミュージシャンあるあるも彼らには当てはまりそうにない。
「メジャーデビューさせていただくことはとてもありがたい事です。ただ語弊があるかもしれませんが、そこまで大それたことだとは思っていなくて…。何故ならば自分たちとしてはやっていることは変わらないし、これからやっていくことも変わらないと思うから」とは鈴木の弁。ズも「そもそも僕らは劇的に変化できない人間。売れるためにああしろこうしろと言ってくる外野の言葉を全部クソ喰らえ!でここまでやって来た。その結果のメジャーデビューというのも興味深い」と心境を語る。
『音楽やめたい』『アホはくりかえす』『正々堂々、死亡』『ファッキンミュージック』…。自らの苦しみや弱さ、怒り、憎しみ、嫉妬をガソリンにクリエイトしてきたこれら楽曲の延長線上に、メジャーシングル第1作『違和感と窮屈』も位置するという。
イカサマみたいな最高や最強 安売りみたいな笑顔と絶望 真似事みたいな情熱と感情 吐き気がするぜ
歌詞として綴られるヒリヒリするストレートな言葉。そして煽り立てる「抵抗しろ」と。同じ違和感を持つ者たちに祈るように呼び掛ける「染まらないで、飲まれないで」と。激しいだけではない、漂う物悲しい音像。立っている場所がどこであろうと関係ない、媚びない。鈴木実貴子ズが鈴木実貴子ズでしかないことを声高に宣言する、頑強な一曲だ。
無理して自分をごまかすな
本人たちにも確信犯的自覚あり。鈴木が「メジャーデビューということで大衆に受ける様にパー!っと行きたい願望はあるけれど、私たちの業の深さがそうはさせない。う~ん、鈴木実貴子ズのメジャーデビューは何かしらのミスなのか?」と笑い飛ばすと、ズも「ある意味、メジャーファーストとしては不釣り合いな曲。これでメジャーとしてのスタートを切るんだ!?という驚きがある。でもこの曲は僕らの大好きな曲であり、ダウナーな感じが鈴木実貴子ズという本質を突いている」と自信を持っている。
言いたいことも言えない今の世の中が、鈴木実貴子ズを呼び寄せたのか。鈴木は楽曲に編み込んだ魂をこう解説する。
「この12年間、私は感情や常識やルールに対して『なぜ?』と疑問を抱きながら生きてきました。生きる日々の中でぶつかる違和感、そこからくる窮屈さ。そんなこといちいち考えず飲み込まれて生きた方が楽だという意見もわかる。でも私は不確かなベルトコンベアに乗るのは嫌だし怖い。無理して自分を消さなくてもいい。ごまかさなくてもいい。楽曲にある『抵抗しろ』とは『自分を持とうよ』という願いに変換できるかもしれない。違和感を抱いて生きる人を、私はこの曲で肯定してみたい」
そんな鈴木の思惑をズはどう見ているのか?
「彼女の歌詞を読むとハッキリ物事を言ってサバサバしているように思えるけれど、常に自分の中の揺らぎと向き合い葛藤している。その葛藤を乗り越えようとする姿がそのまま曲になっている。世の中に葛藤がない人、ブレがない人なんていない。だからこそ『違和感と窮屈』は多くの人の心にフィットするのではないか」
届けたい人に届けるために、必要としている人のために。鈴木実貴子ズはこれからも抗い続ける。音楽を武器にして。
(まいどなニュース特約・石井 隼人)