古来より筆記や絵画に用いられ、日本文化の根幹を担ってきた墨。今、SNS上ではそんな墨に関し情報発信する一人の墨職人が注目を集めている。
「型から取り出した直後の墨はこんな感じ」と乾燥前のフニャフニャに柔らかい墨を動画で紹介するのは長野睦(ながの・あつし)さん。
10月12日に投稿したこの動画は9万件を超える「いいね」を獲得し大きく拡散されたが、「羊羹みたい」「プルプルだ」とここまで反響があるのは珍しいそうだ。
長野さんは奈良市で150年以上にわたって墨づくりを続ける錦光園の七代目墨匠。大学卒業後は家業を継がず、外食産業で10年以上勤務していたが、子供の頃から慣れ親しんでいた家業を継ぐべく墨職人に。錦光園のみならず、需要低下から斜陽産業と化してしまった墨業界全体を盛り上げるため、あらゆるツールを活用して日々奮闘している。
長野さんにお話を聞いた。
ーーSNSで情報発信を始めたきっかけは?
長野:現在、墨業界は存続危機の危機にあります。墨の生産量は過去と比べ激減しており、廃業してしまう業者も多数。みなさんに少しでも墨の魅力や文化的意義を知っていただこうと情報発信するようになりました。
ーー墨そして奈良墨の魅力は?
長野:書や水墨画で果たす役割はもちろんのこと、20世紀には版画家の長谷川潔氏が銅版画の印刷に墨を用いフランス最高の芸術賞を獲得するなど、芸術的な魅力は底知れません。
そして国産の固形墨の9割が奈良墨です。メイドインジャパンの高品質のものづくりを心掛けています。また錦光園では現在主流になっている油煙墨だけでなく赤松の木を燃やして採取する煤を使った松煙墨づくりにも注力。日本における「はじまりの墨」とも言える古来からの製法で、独特の幅広い色味が魅力となっています。
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錦光園は墨の魅力を伝えるべくオンライン体験やワークショップ、学校への出張授業などさまざまな活動を展開。また2024年11月には墨づくりに欠かせない国産松煙の生産・承継を目指す「国産松煙生産プロジェクト」の実現に向けたクラウドファンディングを予定している。伝統は一度失われたら二度と戻ってこない。関心ある方はぜひチェックしていただきたい。
奈良墨工房「錦光園」施設概要
所在地:奈良県奈良市三条町547
(まいどなニュース特約・中将 タカノリ)