9月30日、多くの銀行が住宅ローンの変動金利を引き上げると発表し話題になりました。日本では7割以上の住宅ローンが変動金利で契約されています。そのため、金利の引き上げは多くの家計に影響を与えるおそれがあります。
海外では日本以上に金利が高く、アメリカでは7%を大きく超える水準に達しています。金利だけでなく、契約内容も日本とは異なります。例えば、日本では変動金利が主流ですが、アメリカやイギリスでは固定金利のローンが一般的です。
海外と日本の事情を比べてみると、住宅ローンの制度にはさまざまな違いがあります。違いを知ることで、日本の住宅ローンのメリットと注意点が見えてきます。
アメリカの住宅ローンは固定金利がほとんど
先述したように、アメリカの住宅ローンは固定金利の契約がほとんどです。実に9割以上の個人が固定金利を選んでいます。返済期間を通して金利を一定に保ち、将来的な金利上昇リスクを回避していると考えられます。
実際にアメリカの住宅ローン金利は高まり続けています。たとえば、5年契約の固定金利は、
・2019年10月は4.1%
・2023年10月は7.6%
と、直近の4年で3.5ポイントも上がっています。
興味深いことに、所得が高い人ほど、そして若い人ほど変動金利を選ぶ傾向が見られます。こうした人たちは、金利上昇リスクを受け入れられる経済状況だと考えられます。リスクを受け入れる代わりに、ふだんの返済額を小さくしているのです。
イギリスの住宅ローンは5年以内の固定金利プランが多い
一方、イギリスの住宅ローン市場でも、アメリカと同様に固定金利が主流です。こちらもやはり9割以上の個人が固定金利でローンを組んでいます。
ただし、イギリスで「固定金利」と呼ばれる契約内容は、アメリカのそれとは少し異なります。イギリスでは2〜5年といった短い期間だけ金利が固定され、その後は変動金利に切り替わる住宅ローンが一般的なのです。つまり、長期にわたって金利が固定されるアメリカの住宅ローンとは違い、数年ごとに金利の見直しが必要となります。
イギリスでの固定金利(5年固定)は、
・2021年9月は1.29%
・2023年9月は5.23%
と、この数年で約4ポイント高くなっています。このように、金利変動リスクによって利払いが膨らむ可能性は常に存在します。一方で、短期の固定金利にすることで、将来的に市場金利が下がったら、低い金利で借り換えられるかもしれません。
ちょっと変わった日本の「変動金利」が人気な理由
さて日本の住宅ローンですが、アメリカやイギリスと違い、変動金利が主流です。約7割の個人が変動金利を選び、2割が短期の固定金利、そして1割がずっと固定金利が続くプランとなっています。
日本ではなぜ、変動金利がこれほど人気なのでしょうか?
その背景は2つあります。第一に、長く続いた低金利です。日本の住宅ローンにおいて、変動金利の基準となる「短期プライムレート」は
・2009年1月は1.475%
・2024年9月は1.625%
と推移しています。この15年で0.15ポイント高くなったとはいえ、高い水準とは言えません。先ほどのアメリカやイギリスと比べると、金利の差は明らかでしょう。
もう一つの背景として、日本の変動金利には、欧米とは異なる特徴があります。それは、金利の支払いが大きく変わらないような仕組みがあることです。具体的には—
・金利が上がっても、5年間は返済額が増えない
・5年ごとに返済額を見直す際も、新しい返済額は以前の額の1.25倍を超えない
といったルールがあるのです。つまり、変動金利でありながら、固定金利のような安定性も持ち合わせている制度だと言えます。
低金利政策と変動金利ローンのおかげで、日本ではローン返済の負担が小さく抑えられてきました。逆に、アメリカやイギリスで広く採用される固定金利は、個人が支払う利息が多くなる傾向にあります。これは、金融機関が金利変動リスクを負う代わりに、高い金利を求めるためです。
日本の住宅ローンは変動金利への備えと残債の支払いに注意
しかし、日本の変動金利ローンにもリスクは存在します。将来の金利上昇によって、利息の支払いが増える可能性があるからです。上で紹介したような利払いを抑えるルールはあるものの、繰り上げ返済や貯蓄などの対策を考えておく必要はあるでしょう。
もう一つ、日本の住宅ローンで注意すべき点は、「リコースローン」であるということです。リコースローンでは、住宅ローンが返済できなくなった際に、担保(例えば自宅や土地)を処分した後も、残った債務は返済せねばなりません。日本とは異なり、アメリカやイギリスでは「ノンリコースローン」が主流です。担保を処分しさえすれば、残りのローンは返済しなくてもよくなります。
日本の住宅ローンは、変動金利のメリットは大きい一方で、金利上昇リスクやリコースローンであることに注意すべきです。海外の住宅ローンと見比べることで、日本の特徴がはっきりと見えてきます。
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◆新居 理有(あらい・りある)龍谷大学経済学部准教授 1982年生まれ。京都大学にて博士(経済学)を修得。2011年から複数の大学に勤め、2023年から現職。主な専門分野はマクロ経済学や財政政策。大学教員として経済学の研究・教育に携わる一方で、ライターとして経済分野を中心に記事を執筆している。
◆新居 理有(あらい・りある)龍谷大学経済学部准教授 1982年生まれ。京都大学にて博士(経済学)を修得。2011年から複数の大学に勤め、2023年から現職。主な専門分野はマクロ経済学や財政政策。大学教員として経済学の研究・教育に携わる一方で、ライターとして経済分野を中心に記事を執筆している。