滋賀県の約6分の1の面積を占める日本最大の湖、琵琶湖。湖面に小さく映る竹生島に向かって、まるで龍が舞い降りているかのような雲を撮影したのは、長浜市を拠点に活動する琵琶湖写真家・辻田新也さん(「つじ」のしんにょうは点がひとつ)だ。辻田さんは、たとえ雨の日でも外へ出て琵琶湖を撮り続けることをライフワークとしている。なぜ琵琶湖を撮るのか、写真に向き合う想いなどを聞いた。
たとえ雨の日でも毎日外へ出て琵琶湖を撮る
「長浜近辺で撮ることが多いですが、大津市とか高島市などで撮るときもあります」
仕事で県外へ出かけていない限り、雨の日でも琵琶湖を毎日撮り続けているという辻田さんが暮らす長浜市。滋賀県の北部にあたる地域で、冬は雪深く、盆地のため夏は蒸し暑い、寒暖差の激しい気候だ。そのため琵琶湖の景色も、季節ごとの変化に富んでいる。どの写真も、その瞬間その場所にいた偶然の巡りあわせで出会えた風景だ。中でも冒頭の今年8月6日にXへ投稿した写真が、約105万PVを数えるなど大きな注目を集めた。
遠くに竹生島が見える琵琶湖の上空に浮かぶ雲の形が、まるで龍が舞い降りているように見える。竹生島にある都久夫須麻神社(つくぶすまじんじゃ/竹生島神社)には龍神が祀られていることもあり、「まさに降臨!」「幻想的で美しい」など多数のコメントが寄せられた。
「本当に不思議なんです。何かに導かれて撮れたような、奇跡の1枚です」
自分にしか撮れないものを探し続けた先に琵琶湖があった
20代の頃に父親から一眼レフカメラを譲り受けたことがきっかけで、写真の世界へ入ったという辻田さん。独学で腕を磨き、写真家として独立した。商業写真で生計を立てる一方、アーティストとして「自分の作品で人を感動させたい」との想いがあった。「これが自分の使命だ」と思えるテーマを探し続けていた2021年、辻田さんは長男を授かる。
「長浜から見える琵琶湖に沈む夕日が綺麗で、学校や仕事で悩みがあるときなどは、家へ帰る道すがら夕日を眺めて元気もらっていました。みんなを優しく照らして希望を与えるような人になってほしいという想いを、息子の名前に込めました」
そのとき、ふと気づきを得た辻田さん。「これだ!と思いました。ずっと探し続けていたテーマと、僕じゃないと撮れないものが、そこで結びついたんです」
それ以来、商業写真家としての業務をこなす傍ら、琵琶湖を撮り続けている。
これから写真を始める人へアドバイスをお願いすると「写真を楽しんでほしい」という。
「SNSに投稿して『いいね』を狙うだけだと“SNSに撮らされている写真”になってしまい、撮る目的が変わってしまいます。良いも悪いもない写真を、自分の中で楽しんでほしいと思います」
11月には大阪で展示会を開くという辻田さん。初めて滋賀県外で開催する展示会だそうだ。どんな琵琶湖を見せてくれるのか楽しみである。
(まいどなニュース特約・平藤 清刀)