Aさんは新卒で入社した製造業の企業で働く5年目の会社員です。総務系の仕事に就いており、特に問題なく会社員生活を送っていました。ある日、Aさんはとあるインフルエンサーが「転職を繰り返すと年収があがる」と言っているのを聞き、転職を考えるようになりました。というのもAさんは今の会社が第一志望だったわけではなく、給与などの条件面を見てなんとなく選んだという過去があったからです。
実際にAさんが転職活動を開始すると、あまり順調ではありません。面接にたどり着くどころか、書類選考もなかなか通らないのです。年収があがると聞いて活動を始めたものの、転職自体が成功しないAさんには何が足りなかったのでしょうか。キャリアカウンセラーの七野綾音さんに話を聞きました。
ー転職を繰り返すと年収があがるというのは本当なのでしょうか
厚生労働省が公表している「2023年(令和5年)上半期雇用動向調査結果の概要」の「転職入職者の賃金変動状況」によると、転職を機に賃金が上昇した人の割合は38.6%でした。一方で、変わらないと答えた人の割合は26.4%、減少したと答えた人の割合は33.2%です。このデータから考えると、転職を繰り返すと年収があがるとはいい切れないでしょう。
ー転職で好条件を獲得する人にはどんな特徴があるのでしょうか
転職で好条件を獲得する人は、そもそもその職業に関して高いスキルや経験を持っています。そのスキルや経験を転職後に活かして、どんな貢献をもたらすのかを根拠を持って語れる人だと考えます。
ただ転職すれば年収が上がるわけではないので、今の自分について分析し世の中の流れを認識した上で、どの業界・どの職種で自分の能力をどう活かしていくのかを、戦略的に考えていく必要があるでしょう。
転職で年収が上がるという情報を表面的に見てしまい、今の仕事が面白くないからという理由だけで転職活動をしても、年収を上げることは困難です。
ー会社を選ぶ際に、条件よりも大事なことは何でしょうか
採用する企業の視点に立って、その企業で自分のスキルや経験をどう活かすのかを、企業にプレゼンできるかどうかが重要だと考えます。もちろん条件は大事ですが、給与や休日などの条件だけを見て畑違いのところに転職しようとしても、採用に至ることは難しいでしょう。
たとえば、営業職に転職を考えているが接客販売の経験しかないという人でも「接客時にお客様とどのようなコミュニケーションを取ってきたのか」「お客様のニーズをどのように引き出してきたのか」「売上アップにどのように貢献できたのか」などの点をプレゼンができるはずです。そうすれば、スキルや経験を活かして営業職としても活躍する未来を企業側にイメージしてもらえるでしょう。この人を採用したいと思ってもらえるはずです。
また、業界や職種の年収の相場を知っておくことも重要です。たとえば一般的な事務職として働いてきた人が、いきなり高年収を求めるのは困難です。各業界や職種の年収相場を知っていれば、それとかけ離れた要求はしないでしょう。もっとも事務職でも会社経営の根幹にかかわるような専門性の高い事務など、特別な経験があれば話は違ってきます。
自分が転職を考えている業界や職種の年収相場を調べて、自分のスキルや経験とすり合わせて希望年収を叩き出すということをやってみてほしいです。
◆七野綾音(しちのあやね)キャリアカウンセラー/キャリアコンサルタント やりがいを実感しながら自分らしく働く大人を増やして、「大人って楽しそう!働くのって面白そう!」と子ども達が思える社会を目指すキャリアカウンセラー/キャリアコンサルタント。
(まいどなニュース特約・長澤 芳子)