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昭和歌謡の魅力、令和にライブ配信中 筒美京平さんの秘蔵っ子デビューした平山みきさん リクエストに無料で熱唱

まいどなニュース 2024年11月2日 17時0分

 若者の間でひそかなブームになっている「昭和歌謡」。昭和40年代に大ヒットを飛ばし一世を風靡した京都市北区在住の女性歌手が、若者に人気を集める歌特化ライブ配信アプリに挑戦している。

 自分のスマートフォンの撮影機能を使い、7月から自宅などを会場にほぼ毎日、持ち歌やリスナーのリクエスト曲をカラオケにのせてライブ配信。無料のアプリに登録したリスナーからは配信中にコメントやアイテムが届き、双方向でコミュニケーションを取る。

 無料で配信、視聴を楽しめ、利用者はアマチュアが圧倒的に多い。その中で、来年でデビュー55周年を迎える大ベテランがなぜいま、アマチュアの人に混ざって、歌特化ライブ配信を始めたのだろうか。

 「こんにちは」

 8月下旬のある日、自宅の一室でライブ配信が始まった。女性歌手の名は、平山みきさん。撮影用スタンドにスマホを立て、画面を自らに向けた。

 最初の20分はトーク。京都の老舗喫茶「イノダコーヒ」のレモンパイや毎月21日に行われる東寺の「弘法市」などを話題にした。

 その後、リスナーから画面上に届くコメントを読み、リクエストに応える形で、持ち歌のほか「テネシーワルツ」や「川の流れのように」などさまざまなジャンルの曲を独特のハスキーボイスで歌い上げた。

 「自分の歌だけじゃないから楽しい。いろんな歌を歌うって、演じられるっていうのもあるのね。以前はカラオケに行っても歌わなかったの。でも自分の歌よりも人の歌の方が楽しい。私のいろんな部分を見せられる、1日でね」

 たっぷり2時間の配信を終え、そう言った。

 平山さんは、昭和歌謡の名作曲家、故筒美京平さんの「秘蔵っ子」としてデビューし、1971年にリリースした「真夏の出来事」はレコード売上50万枚を記録する大ヒットとなった。80年代に東京から京都に移住。近年もテレビやステージへの出演を続けている。

 平山さんは数年前から自身のユーチューブチャンネルを持ち、知人でフリーアナウンサーの古賀智子さん=京都市東山区=と歌手活動や京都での暮らしについて語る番組を定期的に配信してきた。

 ところが、ユーチューブでは著作権の関係で自由に曲を流して歌うことができなくなり、筒美さんとコンビを組んだ作詞家の恩師・橋本淳さんからも「なぜ歌手なのに歌を歌わないのか」と言われていたという。

 平山さんが歌特化ライブ配信アプリ「Color Sing(カラーシング)」の存在を知ったのは今年の夏。知人の歌手志望の若い男性が配信しているのを見て「おもしろそう」と感じ、配信の仕方や手順を教えてもらった。

 カラーシングは「JOYSOUND(ジョイサウンド)」のカラオケ音源を使用することができ、アプリを取得した歌好きのリスナーが集まる。配信するLシンガー(Liveするシンガーの略)は、1曲歌うごとに現金に交換可能な報酬を獲得でき、歌で稼ぐプロを目指す人もいる。

 カラーシングの運営会社(東京都)によると、Lシンガーは月間2千人以上、リスナー数は3万人以上。プロのシンガーが配信しているケースは少なく、担当者は「平山さんのような著名なプロ歌手にも利用し続けていただき、光栄です」と参加を歓迎する。

 平山さんはこの配信で稼ぐつもりはない。始めて1カ月ほどでフォロワーは200人近くにまで増えた。「コンサートやライブだと私のファンや私を知っている人がくるでしょ。でもカラーシングは配信中に私のことを全然知らない人がリスナーとして入ってきたりする。昭和歌謡は今ブーム。いろんな人に見てもらえるのは、歌手としてプラスだと思うの」

 他人の曲をカラオケで歌っても、そこはプロ。歌唱力もさることながら、平山さんの特徴であるハスキーボイスや節回しが消えることはない。トレードマークともいえる黄色の衣装に身を包んだ平山さんがのライブ配信を視聴するリスナーからは「さすが!!」「イエーイ」といった反応のほか、うっとり聞きほれた顔のマークや拍手のリアクションが画面上に表示されていた。

 カラーシングで平山さんのパートナーを務める古賀智子さんは笑顔で話す。「リスナーさんからは『昔テレビで見ていた憧れの平山さんと気軽にコミュニケーションを取ることができるなんて』と喜ばれています」

 もっとも、平山さんもアマチュアに混じってカラーシングの配信を始めることに葛藤がなかったと言えばうそになる。「入場料を取るのがプロ」という業界の常識もある。しかし、時代に合わせていくこともまた大事なことだと、平山さんは思っている。

 「このまま年を取っちゃうのはイヤ。今は1人で自由なの。やっておかないと、平山みきも先細りになっちゃう。やれる環境があって、聴いてくれる人もいるのなら頑張ろうって。今の私には、これがすごく必要なの」

 生涯、いち歌手。そんなプロのプライドが言葉の端々から伝わってきた。 

(まいどなニュース/京都新聞・国貞 仁志)

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