下着メーカー「ワコール」が、2024年8月7日に公式サイトにて公開した、従業員向けの接客方針『多様なお客さまが利用しやすい売場づくりと接客のためのハンドブック』(以下「ハンドブック」)について、SNSなどで多くの不安の声があがった。
とくに反響が大きかったのが、「商品の対象の性別と認識されにくい方や、トランスジェンダー当事者」が希望する「採寸」や「試着」をサポートする、という方針だ。この方針に、女性からの不安と疑問の声が殺到した。
従来以上に「お客さま」と「販売員」の安全確保を最優先
ワコールではこういった反響を受け、2024年10月28日にHPにおいて、「ハンドブックの記載内容にわかりづらい箇所があった」として、「お客様ならびに販売員の安全確保にはこれまで以上に最優先で取り組んでまいります」との方針を改めて発表。
とくに以下の3点について強調した。
①女性インナーウェア売場における試着室の利用は女性客に限定。
②試着室内での男性客へのフィッティングサービスは実施していない。
③当社グループの女性インナーウェア売場内には、性別に関わらず使用できる試着室は現状設けていない。
これらを踏まえ、まいどなニュースでは株式会社ワコールホールディングス・広報部に取材を行った。
ワコールの回答…「ハンドブック内容にわかりづらい点が含まれていた」
ーーハンドブックの接客方針を受け、女性用の下着売り場や試着室という特殊な空間に「身体男性」が侵入することについて、強い不安や恐怖を感じる女性からの声が多くあがりました。こういった反響に対する御社の見解は?
「従来から当社グループでは、女性インナーウェア売場における試着室のご利用は女性のお客様に限らせていただいております。試着室内でのフィッティングサービスについても女性のお客様に限らせていただいており、試着室内での男性のお客様へのフィッティングサービスは実施しておりません。
弊社のハンドブック内容にわかりづらい点が含まれており、ご不快・ご不安をお掛けしたことへのお詫びと、販売員の安全に関するご心配のお声を真摯に受け止め、お客さま及び販売員の安全確保にこれまで以上に最優先で取り組んでまいる旨をお伝えさせていただきたく、HPにてリリースを開示いたしました。また同リリース内において、特にご心配のお声をいただいている3つのポイントに対し、改めてご説明をさせていただきました。今後も、多様なお客さまが利用しやすい売場づくりに努めてまいります」
外見や会話内容から総合的に判断
ーーネット上には、身体男性による「女性専用スペースに侵入した際の性的な写真や動画」も多く投稿されています。販売員の方々は店頭にて、「性的な承認欲求や加害が目的の人物かどうか」をどう判断するのですか?
「パートナーやご友人へのプレゼントをお求めいただくことやご一緒に商品を選ばれるお客様、LGBTQ+のお客様などがおられるため、現状、男性の入店制限はいたしておりません。会話を中心とした接客を行い、多様なお客さまが利用しやすい売場づくりに努め、性別にかかわらずお客様からのご要望をお伺いしながら、商品選びのお手伝いをしております。
ただし、フィッティングルームのご利用や、フィッティングルーム内での接客については、外見や会話内容から総合的に判断し、女性だと確認が取れたお客様に限らせていただいております。また、お客様から性別を確認できる書類(マイナンバーカード等)などのご提示があった場合は、その内容を確認させていただき判断いたします。これらの対応は、8月に開示した『多様なお客さまが利用しやすい売場づくりと接客のためのハンドブック』以前からも行っております」
店頭では「販売員の不安」の払しょくを最優先
ーー店頭で身体男性とのトラブルが起きた場合の具体的な対処法や、トラブル予防策を教えてください。
「一人ひとりのお客様により状況は異なりますため、販売員が不安を感じる場合には性別にかかわらず採寸をお断りしたり、ご自身で採寸していただくケースもございます。また、従来、対応困難なお客様・迷惑客への対応マニュアルを運用しています。性別にかかわらず、従業員に危害がおよぶ行為、恐怖や精神的苦痛を感じさせる行動があった場合には、身を守る行動を取るように伝えております。
具体的には、警備員を呼ぶ、周囲に助けを求める、防犯ブザーを鳴らすなどです。店頭の従業員には改めて対応マニュアルについて周知をいたします。販売員の不安払しょくを最優先に、意見を聞きながら多様なお客様がご利用しやすい売場づくりと接客ができるよう、今後の対応をさらに検討してまいります」
◇ ◇
株式会社ワコールホールディングス・広報部によると、同社がHPにて発表した『多様なお客さまが利用しやすい売場づくりと接客のためのハンドブック』については、「これまでに頂戴した全てのお声を真摯に受け止め、表現の見直しなど検討を進めてまいります」とのこと。
また、「デパートや小売店などの流通各社様には、改めてワコールから、従来からの方針に変更がないことをご説明しており、方向性についてはご理解いただいております」という。
日本特有のマナーや常識が通用しなくなりつつある昨今。現場の声を活かした安心安全な売り場づくりに期待したい。
(まいどなニュース/Lmaga.jpニュース特約・はやかわ リュウ)