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大河ドラマ「光る君へ」を『源氏物語大辞典』共著者はどう見ている? 初回から驚き、中盤でうならされ、最終回に向けて期待すること

まいどなニュース 2024年11月8日 16時0分

 主人公の紫式部を女優の吉高由里子さんが演じるNHK大河ドラマ「光る君へ」が佳境に入っている。三条天皇(木村達成さん)が一条天皇(塩野瑛久さん)から譲位され、平安時代の最高権力者・藤原道長(柄本佑さん)との覇権争いが始まった。大河ドラマで人気があると言われる戦国時代ではなく、平安の貴族社会を描く物語は、合戦とはまた違う朝廷内での権力闘争が一興だ。「光る君へ」は千年の時を超えるベストセラー『源氏物語』を書き上げた女性の人生を通して「ラブストーリーの名手」と評される大石静さんがオリジナル作品として脚本を手がけた。本名も生没年もはっきりしないと言われている紫式部の物語を『源氏物語大辞典』(2002年、角川学芸出版)の共著がある山陽学園大学(岡山市中区)の佐藤雅代教授は専門家としてどう見ているのか、10月下旬に岡山市内で開かれた講演会をのぞいてみた。

 講演会は、佐藤教授が所属する明治大学校友会岡山県支部の女性メンバーでつくる「岡山マスカット倶楽部」の年1度の勉強会で、演題は「紫式部と『源氏物語』」。佐藤教授は平安時代から鎌倉時代にかけての和歌が専門で、昨年も同じテーマで講演し人気だったことに加え、今年は大河ドラマで関心が高いことから選ばれた。

 佐藤教授はネット配信で「光る君へ」を毎回見ているそうだ。ドラマはドラマだと分かっているものの、第1回から佐藤教授を驚かせるシーンがあった。のちの紫式部となる少女まひろ(落井実結子さん)の目の前で母・ちやは(国仲涼子さん)が道長の兄・道兼(玉置玲央さん)に刺殺される場面だ。確かに紫式部の母は幼い頃に亡くなっているが、詳しくは分からない。このシーンについて佐藤教授は「当時の貴族は、血を穢(けが)れと捉えて忌み嫌っており、身分の高い道兼が自ら人を刺殺し、返り血を浴びるといった状況はまずあり得ない」とする。しかし、それほど衝撃的な演出はつまり「『光る君へ』は、歴史上の話を全て史実に沿った物語として描こうとはしていませんよ」という脚本家・大石さんの挑戦ともとれる前置きを表しているのだ、と佐藤教授は見ている。

 佐藤教授をうならせるストーリーもあった。道長の長女で幼いうちに一条天皇の后(きさき)として宮中に上がった彰子(見上愛さん)は、ドラマの中では何を言われても物憂げな表情で「仰せのままに」と意思のない女性だった。宮中や周辺では「うつけではないのか」と言われるほどだったが、紫式部だけは「彰子様は聡明な方でいらっしゃる」と励まし「ご自分の気持ちをもっと外にお出しになれば、きっと帝もあなたの気持ちに気付いてくれます」と助言する。そして背中を押された彰子は一条天皇に秘めた思いを伝えることができ、結ばれるというもの。佐藤教授は、ここの部分が史実なのかどうなのかと問われれば「史実ではないだろう」としながらも「素晴らしい作りになっている」と評する。というのも、紫式部によって記された日記とされる『紫式部日記』に「こう言いたいのだけれども言えない。だから書いて、それを吐き出す。どれほど思いの丈を、相手にぶつけられたらいいものだろうか」ということが繰り返し述べられているのだとか。「『自分の気持ちを外に出しなさい』というのは、実は史実の紫式部ができなかったことだったわけで、紫式部自身の思いを彰子に重ねて述べている見事な演出だ」と佐藤教授は言う。

 12月に最終回を迎える予定のNHK大河ドラマ「光る君へ」。紫式部は、いつ頃亡くなったのかははっきり分からない。歴史の表舞台から、いつの間にかスーッと消えていったような感じだと佐藤教授は話す。では物語の終わりはどのようになるのだろうか。2011年に公開された映画「源氏物語-千年の謎-」(配給・東宝)では、紫式部は旅に出るという設定だった。それは、ある意味間接的に死を表現する手法かもしれない。佐藤教授も「1次資料で生没年が分からない以上は、紫式部の直接的な死は描かないだろう」とする。「お互いの思いが通じないというのが『源氏物語』の基本的なテーマであるならば、ドラマではこれまですれ違いばかりだった紫式部と道長の思いが、ようやく通じるようなシナリオなのでは」と予想。佐藤教授は、思いが通じるシーンは他人には分からないけれども、二人だけが分かるような幸せな展開を期待しているという。公式ホームページのドラマ紹介には「変わりゆく世を、変わらぬ愛を胸に懸命に生きた女性の物語」と書かれている。ラブストーリーの名手・大石さんが描く「変わらぬ愛」の結末を楽しみにしたい。

 佐藤 雅代(さとう・まさよ) 岡山県早島町生まれ。明治大学大学院文学研究科博士前期課程修了、大阪大学大学院文学研究科博士後期課程修了、博士(文学)。明治大学、白百合女子大学、国立音楽大学の非常勤講師を経て、現在、山陽学園大学教授。主な著書に『歌ことば歌枕大辞典』共著(角川書店)、『和歌文学大系20巻』共著(明治書院)など。山陽新聞カルチャープラザでは『源氏物語』の絵画化をテーマにした講座を持つ

(まいどなニュース/山陽新聞)

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