大阪市福島区に本社があるナリス化粧品が、災害で被害に遭った人たちの心を癒す「触れるケア」のボランティア活動「心人(こころびと)」プロジェクトに取り組んでいる。被災者の手に直接触れてマッサージを施すことで、心身を癒す効果があるという。
東日本大震災をきっかけに始まった「心人」プロジェクトについて、ナリス化粧品の介護美容事業推進部長、酒井宗政さんに聞いた。
手と手を触れ合い言葉を交わすことが心身の癒しに
心人プロジェクトとは、被災した人たちに寄り添い、ハンドマッサージを施しながら対話をして心の疲れを解きほぐしてもらおうという、ナリス化粧品が社を挙げて取り組んでいるボランティア活動だ。
人と人が触れ合うことで緊張の緩和や心身のリラクゼーション効果につながり、本能的に安心感を覚えるといわれている。また、自然に会話が生まれ、コミュニケーションを取ることで落ち着きを取り戻す人もいるという。ハンドマッサージを受けに来るのは、小学生から高齢者まで幅広い。
「1人当たり10分から15分。災害のことを自分から話してくださる方もおられますし、話したくない方もおられます。こちらも無理に聞き出すことはせず、傾聴する姿勢で臨んでいます」
ハンドマッサージを行うことが活動の基本だが、必ずしもマッサージを行う必要はないそうだ。受けに来た人の中にはじっと手を握っているだけの人もいるという。癒しになるなら、それでもいいそうだ。
被災した社員や販売員の安否確認と救援活動から始まった
心人プロジェクトが始まったきっかけは、2011年の東日本大震災だった。
「弊社は訪問販売がメイン事業となっておりまして、東北にもたくさんの販売員がいらっしゃいます。まず私たちの訪問販売事業部の営業本部で対策本部を立ち上げて、現地社員と販売員の安否確認を行いました」
一方で、当時の美容部長が、海外で不穏な噂を耳にした。原発事故が起こった「福島県」と大阪市「福島区」を混同され、「福島に本社を構える会社の化粧品は大丈夫なのか」と風評が立っているというのだ。
また、ナリス化粧品は当時「触れる癒し」のケアについて共同研究をしていたルイ・パスツール医学研究センターの日本人の先生から「福島の疲れ切った皆さんを癒してほしい」との要望を受けたこともあって、「福島県と福島区は親戚のようなもの」という考えのもと、心人プロジェクトの立ち上げに至った。
避難所や仮設住宅に赴いてハンドマッサージを行うのは、ビューティーアドバイザーと呼ばれる販売員と社員の有志だ。活動はボランティアのため、その都度動ける人を募って被災地域へ赴く。
ナリス化粧品は2014年、100%出資して一般社団法人「日本介護美容セラピスト協会」を設立。所定の講座を履修して試験に合格した人を、ビューティータッチセラピストとして資格認定する。2024年9月末現在で認定セラピストの数は2792人を数える。
2016年の熊本地震では、避難所や仮設住宅の計8カ所で566人、2024年の能登半島地震では4カ所の避難所で111人にハンドマッサージを行った。活動のきっかけとなった東日本大震災では、混乱の最中だったこともあり、正確な人数は把握されていないそうだ。
心人プロジェクトから始まったハンドマッサージは、東京都豊島区立巣鴨北中学校の防災授業にも取り入れられ、今年9月には生徒同士で手を取り合いながら講習が行われた。
今後、災害は起こってほしくないが、起こったときは駆けつけて、触れるケアの活動を広めたいとのことだった。
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ナリス化粧品
https://www.naris.co.jp/
(まいどなニュース特約・平藤 清刀)