病気や老齢などで食が細くなってしまったペットに、「少しでも食べられるものを」と願うのが飼い主の親心だ。
先日、衰弱した愛犬に、口当たりが良く、栄養化の高い「アイスクリーム」を与えたという投稿がX(旧Twitter)で話題になった。それに対して、「人間の食べ物を与えるなんて」と非難する声も寄せられたという。
それを受けて、「ペットや人間の看取りを経験したことがある人たち」から、生きるための「最後の食事」について、さまざまな声がXに寄せられた。
そんななか、漫画家の松尾しより(@ShiyoriM)さんがXに投稿した愛猫、あんかちゃんの「もったいねぇお弁当」の話に大きな注目が集まった。
衰弱した愛猫が食べた「ルビーのお弁当」
「私は生魚を食べないので、人生初魚屋ののれんをくぐり、『いちばん美味しいマグロの赤身下さい』と、馬鹿みたいな注文の仕方をしたせいか、魚屋さんに『何に使うの?』と聞かれて、『病気の猫に』と答えたら、『もったいねぇな!』と言いつつ、甘海老をオマケしてくれた。猫はルビーのようなマグロを食べてくれた」
続けて松尾さんは、その後の話をXに投稿。
「それから1週間ほどで亡くなったんだけど、直前までルビー鮪と生ホタテを嬉しそうに食べていた。犬猫の終末期の看取りをした飼い主ならわかるよね。最後のご馳走。天国へのお弁当だよ」
「魚屋さん、今も近所で営業中です。焼き魚も販売してくれているので時々買います。美味しいです」
映画のように美しい最後の晩餐の様子に、リプ欄には多くの反響が寄せられた。
「美味しかった」と、空の上で自慢してるかも
「今まで食べてきた中でいちばん美味しいご飯で、幸せだったと思います」
「天国へのお弁当、素敵な表現ですね。うちの愛犬も最後の時は、大好きだったアイスと果物を嬉しそうに目を細めてゆっくりゆっくり食べてました。幸せな顔して好物を食べる姿がとても愛しかったのを思い出しました」
「飼い主さんと、『もったいねぇ』と言いながらもオマケまでつけてくれる粋な魚屋さん。ねこさんを思いやれる方たちが素敵です!」
「魚屋さんも内心嬉しかったのでは? 猫様、今頃空の上でお友達に美味しかったと自慢してるかも!」
この一口が明日の命に繋がると思い、泣きました
ルビーのマグロを食べて旅立ったのは、長らく住み着いていた公園で虐待を受けていたところを松尾さんに保護されたという三毛猫、あんかちゃん。
「保護して半年ほどで病気が吹き出して来て、2度の抜歯手術、甲状腺機能亢進症、腎臓病、最後は扁平上皮癌で看取りました。あんかちゃんは私にもあまり懐かず、虚空の猫でした。でも最後の時は、部屋に入って来て私の布団の近くで休んでくれて、息を引き取りました」(松尾しよりさん)
この一口が明日の命に繋がると思い、泣きました
松尾さんが子猫の時に保護した、先代猫のコタツちゃんも元野良猫。あんかちゃんと同じく扁平上皮癌を患い、口内に腫瘍ができていたため、通常の猫フードは食べられなかったそうだ。
「エナジーチュールも食べられなくなり、リキッドの栄養食をシリンジで強制給餌することになったのですが、それは私から見ても食事ではなく……。悩んだ末、私が夜食に食べていたロールケーキの生クリームや、サンドイッチのハムを欲しがっていたのを思い出し、生クリームを試しにあげたら舐めてくれました。その一口が明日へ命が繋がると思い、嬉しくて泣きました」(松尾しよりさん)
食べることは、生きること
口内の腫瘍が悪化したあんかちゃんも、コタツちゃんと同じ経緯をたどったという。
「タクシーで動物病院に通院する道すがら、昔ながらの魚屋さんを見かけていたのですが、もしかしたら……と思い、タクシーを止めてもらって、初めて魚屋さんで買い物をしました。生物を食べれない私でもおじさんが奥の冷蔵庫から出してきてくれたマグロは、キメが細かくてゼリーのようで、これはとても美味しい物なんじゃないかと思いました。
オマケの甘エビとマグロと生ホタテを買って帰って、もしあんかが食べてくれなかったら私が焼いて食べるしかない、と思っていました。ぐったりしたあんかの前にマグロと生ホタテを出すと、あんかの顔がぱっと輝いてガツガツ食べてくれた時、食べるってすごいことなんだなと思いました。この最後のご飯を思い出のお弁当にして、天国へあがってほしいと願いました」(松尾しよりさん)
辛い思いも過去も、美味しい記憶で塗り替えたい
若くて元気で健康な時期であれば、ペットに「ペットフード」以外のものを与えるのは賢明ではないだろう。
「獣医さんから『何でも食べれるものをあげて下さい』と言われた時は、もうお弁当を持たせてあげる以外何も出来ないよ、ということなので、治療や手術で辛かったとか、お腹が空いて辛かったとかではなく、好きな物を何でも食べて、美味しかったなって、思い出のお弁当を持って旅立たせたいと思います。
生クリームのお弁当を持たせたコタツは野良猫だった子です。猫ボラさんが言うには、あんかはもともと飼い猫だったのに捨てられ、兄弟猫が先に亡くなり公園に独りぼっちで住んでいたところを私が拾ったっぽいです。そういう辛い思いも、最後に美味しいものの記憶で塗り替えたい気持ちもありました」(松尾しよりさん)
あんかちゃんのために、「もったいねぇな」と言いながら、最高のマグロの赤身を出してくれたお魚屋さんには、「今もたまに焼き魚を買いに行く」と、松尾さん。
「猫は?と聞かれ、亡くなりましたと伝え、お礼を言いました。もったいねぇマグロは、あんかちゃんの一生のなかでいちばん美味しいものだったと思います」(松尾しよりさん)
愛猫たちへの愛にあふれた最後の晩餐を美しい言葉で綴ってくれた漫画家、松尾しよりさん。松尾さんの体験レポートを描いた漫画作品『前世療法へようこそ ヒプノセラピーブロマンス』が各ブックサイトにて配信中だ。
(まいどなニュース/Lmaga.jpニュース特約・はやかわ リュウ)