11月5日の米大統領選は、大接戦となるとの見方とは裏腹にトランプ氏の圧勝で幕を閉じた。トランプ氏は選挙戦の鍵を握ると言われたペンシルベニアやジョージアなど激戦7州を全勝し、過半数の270人を大きく上回る312人の選挙人を獲得し、226人に留まったハリス氏に圧勝した。また、トランプ氏は2016年と2020年の大統領選挙を上回る獲得票数を記録し、上院下院の双方で共和党が多数派になるなど、最高の結果を獲得している。正に、トランプ氏のための選挙となり、共和党は完全にトランプ党と化している。また、トランプ氏は政権2期目ということで再選に対して配慮する必要がなく、政権人事でも自らに忠誠的な人物を次々に起用するとされ、政権1期目以上にトランプ色が強くなるだろう。
では、日米関係はどうなっていくのだろうか。トランプ氏は政権1期目の時、安倍・トランプ時代の良好な日米関係を経験しており、基本的なスタンスとしては日米関係を重視していくと考えられる。しかし、安倍・トランプ時代の良好な日米関係を再現するにあたり、いくつかの課題がある。
まず、石破総理とトランプ氏との相性だ。相性の問題を考えたらキリがないが、安倍氏は8年前の大統領選でトランプ氏が勝利した直後、外国の首脳としていち早くトランプ氏と対面で会談し、ゴルフクラブを手土産に個人的な信頼関係を構築することに尽力した。それが功を奏し、安倍氏はトランプ氏と会談するごとに毎回のように共通の趣味であるゴルフで親睦を深め、良好な日米関係が維持された。要は、日本が新たに良好な日米関係を構築するには、トランプ氏と個人的な信頼関係を作ることが求められるのだ。石破氏はゴルフ通ではなく、安倍氏のようにゴルフ外交による信頼構築は難しいと考えられる。また、トランプ氏はビジネス感覚で、直感で物事を判断し、何事もスピーディーにこなしていきたいタイプだが、石破氏は理屈絡みの徹底討論を好み、話し方も非常にゆっくりなタイプであり、噛み合うのが中々難しいのではとの声が専門家からも聞かれる。
また、それぞれが掲げる政策にも違いがある。9月に総理大臣となった石破氏であるが、その直後から石破氏が提唱するアジア版NATOの問題が物議を醸した。アジア版NATOとは中国を仮想敵国と位置付け、米国や日本、韓国やオーストラリアなど米国の同盟国で集団防衛体制を作る構想だが、トランプはNATOのような集団防衛体制にそもそも反対で、「なぜ米国が他国の安全保障を担保しなければならない」、「そうして欲しいならお金を払え」というスタンスであり、全く噛み合わない状況だ。
さらに、石破政権の政治的脆弱性もリスク要因だ。安倍氏がトランプ氏と良好な関係を維持できたのは、安倍氏がトランプ氏から信頼を獲得できたことに尽きるが、安倍自民党政権が多数与党であり、政治的基盤がしっかりしていたからだ。しかし、10月の国政選挙で自民党は大きく議席を失い、歴史的敗北を喫した。自公は過半数を下回り、石破政権は少数与党の状況に追いやられている。こういった状況では、石破政権が政局の混乱に陥り、それによって外交が十分に機能しなくなることは十分に考えられる。そして、政権交代の連続のような状況が続けば、日本はトランプ氏から信頼を得られなくなり、日米関係が停滞していく可能性が考えられる。トランプ氏は政治的基盤がしっかりした政党の強い指導者を求めており、石破政権が今日置かれる現状が日本にとって最もリスクと言えよう。
◆治安太郎(ちあん・たろう) 国際情勢専門家。各国の政治や経済、社会事情に詳しい。各国の防衛、治安当局者と強いパイプを持ち、日々情報交換や情報共有を行い、対外発信として執筆活動を行う。