友人と共に保護猫活動を行う、はぐれ&けやき(@e_hagure)さんが、元捨て犬だったタラちゃんと出会ったのは、2000年頃。当時、はぐれ&けやきさんご夫妻のお宅には、元盲導犬候補生だったジャーマン・シェパードの女の子、ラウディちゃんがいた。先代犬のゴンくんが亡くなり、寂しそうだったラウディちゃんのため、保護協会を通じてタラちゃんを迎えた。
どんな酷い飼い主でも犬は信じてるのに…
「タラは完璧な脚側歩行をする犬だった。もちろん私が教えたわけではない。元の飼い主に躾けられたのだろう。ピタリと私の左側に立ち、決して前に出ない。私が止まると即座に止まる。好きに歩いていいんだよ、と言っても困惑したような顔を向けるだけ。イジワルして私が左側に回ると、あわててまた左に回る。
それを繰り返して私がリードでグルグル巻きになると、『ど、どうすれば…?』という顔で見上げる。そんな犬だった。そこまでした犬をなぜ捨てる?タラは引っ越しのトラックから捨てられた犬だった」
「トラックの後を必死に追いかけ、やがて諦め、捨てられた公園に戻り、そこで野宿生活を始めた。飼い主が迎えに来てくれるのを待っていたのだろう。いつもトラックの走り去った方向を眺めていた、と聞いた。周りの人間が、酷い飼い主だとどんなに憤慨しても、それほど犬は飼い主が好きなのだ」
「公園で心ない人に虐待され弱っていたタラはやっと保護され、そこからのリレーでうちの子になった。おどおどビクビクしていたタラは、ラウディに24時間寄り添うことで居場所を見つけようとしていた。大きなラウディはいかにも頼もしく、ラウディと一緒にいれば捨てられないと思ったのかもしれない」
<はぐれ&けやきさんのX(旧Twitter)の投稿より>
※脚側歩行:犬がヒトの脚の側面について歩くこと。
捨てられた公園で虐待を受けおもちゃにされ、妊娠…
はぐれ&けやきさんのブログには、公園で虐待されていた当時のタラちゃんの様子が詳しく書かれている。
「引っ越しのトラックに置いて行かれた後、チロ(※後のタラちゃん)は必死にその後を追って行き、いつのまにかまた、捨てられた公園に戻っていました。そのうち、この公園を根城にしているダンボールハウスの男性に捕まり繋がれ、虐待され始めたようです。犬を連れていると実入りがいいので捕まえたものの、面倒を見る気はなかったのでしょう。
ある日、大型犬を散歩させていた男性がチロに自分の犬をけしかけたそうです。チロは妊娠しました。チロは細身の中型犬です。小さなメス犬が大型犬の子どもを妊娠したらどうなるか……。公園の近くに住むおばあさんを始め、ボランティアの人たちは、大きなお腹を抱えて苦しそうに喘ぐチロを保護しようと決めました。すっかり人間におびえきったチロは、警戒して近づかせてくれません。結局、保護するのに3日かかったそうです」
(はぐれ&けやきさんのブログ「tarabooのblog」より)
二度と生きものに関わらないで
元飼い主の躾を完璧に守る健気な犬だったにも関わらず、無責任に捨てられ、身勝手な人間たちから酷い虐待を受け続け、瀕死の状態で保護されたタラちゃん。保護先のおばあさんの家には先住の柴犬がおり、柴犬がタラちゃんを攻撃し続けたため、タラちゃんは玄関先で過ごすしかない状況だったという。
「私自身はただ犬が好きで、どうせ犬を迎えるなら不幸な犬を1匹でも減らせればと思っていただけでした。最初の犬、ゴンは友だちが持ってきた子犬。2匹目のラウディはアイメイト協会から引き取った盲導犬不適格犬……試験に落ちて、家庭犬として引き取ってくれる人を捜していた犬です。なので、本当の意味で『保護犬』に関わったのはタラが最初でした。
元飼い主に対しては、『二度と生きものに関わらないでほしい』という思いです。でも腹の底では、『あなたも同じ目に遭えばいい』と思っています。もしあのまま飼われてたら……と思うとゾッとします」(はぐれ&けやきさん)
主従関係ではなく、犬は仲間・友だちでした
はぐれ&けやきさんによると、完璧な脚側歩行をするタラちゃんは驚くほど従順で穏やかで、「性格は花丸!」だったそうだ。ただ、眉間に怪訝そうなシワのある「俳優・川谷拓三さん似」の個性的な顔のせいか、なかなか里親が見つからなかったという。
「タラの完璧な脚側歩行についてですが、私はそれを是とは思っていません。脚側歩行が悪いのではなく、人と犬を主従関係と捉えてはいないという意味です。私と犬たちは常に仲間であり、友だちでした。ただ私が最年長者であること、そして人間社会に引きずり込んで自由を奪った者として、彼らを庇護し、できるだけストレスなく暮らせるよう責任を持たねばと思っていました。それがちゃんと出来ていたかどうかはわかりませんが…。どの子にも反省と後悔はたくさんあります」(はぐれ&けやきさん)
無責任な人間が減らないなら……
保護後のタラちゃんついて、「推定3歳でやってきて、10年間上書きし続けたから、昔のことは忘れてくれてたんじゃないかな。晩年は、両親にめちゃくちゃ甘やかされてたし」とXに投稿していた、はぐれ&けやきさん。
タラちゃん亡き後に迎えた保護犬、けやきちゃんを最後の犬と決め、現在は友人と共に北青山で猫の保護シェルターで保護猫の譲渡活動を行なっているという。
「最後の犬になったけやきは、元飼い主が動物愛護センターに持ち込んだ子でした。どうせ処分に持ち込むからと、飼い主は食事も与えていなかったようで、けやきはガリガリに痩せていました。
そういう無責任で身勝手な人間が1人でも減れば……と思いますが、おそらくそういう人たちにそんな声は届かない。『捨てる人が減らないなら、拾う人を増やしたい』。つまり、蛇口を締められないのなら受け皿を大きくしたい……と言っていた保護主さんの言葉が印象的でした」(はぐれ&けやきさん)
(まいどなニュース/Lmaga.jpニュース特約・はやかわ リュウ)