コロナ禍のとき、フォロワー”40人”に増えて「バズった!」と喜んだ従業員のつぶやきが拡散され、一躍時の会社となった「やすもと醤油(しょうゆ)」(松江市東津田町)。あれから4年、会社は一体どうなったのか。訪ねると工場は年中フル稼働し、昨年のボーナスは創業以来初となる破格の9カ月超え。商品の魅力が”バレて”繁盛が続いていた。
フォロワー40人 ⇒ 上司『メッチャバズってるじゃん!』
「やすもと醤油」を製造販売する安本産業は1885年創業。従業員20人ほどの小規模事業所だ。
2020年6月に開設した会社のX(旧ツイッター)の管理を任せられた30代社員”中の人”が同年8月にフォロワーが40人を達成した社内でのエピソードを紹介。「上司から『メッチャバズってるじゃん!』と褒められた」と投稿した。
時はコロナ禍の真っただ中。世の中が沈んだ状況のなか「ほのぼのして癒やされる」と話題を呼び、拡散が続いてフォロワーはまたたく間に2千倍の約9万人を超えた。
「忙しくてもうだめかと思いました」。安本隆政社長(62)がうれしそうに述懐する。
バズりによって、やすもと醤油のオンライン注文が殺到し、当時一つだった製造ラインはパンク状態。従業員の知人や友人など縁をたどってアルバイトを依頼し、土日は社長自らがラインに入って製品を作り続けた。
すぐに落ち着くだろうと思っていたが、殺到状況は数カ月も続いた。「ほんとに体がしんどくて『これがずっと続いたら死んじゃうなぁ』と妻と話しながら作業してました」と苦笑いする。
薫製ドレッシング、とりこにする”中毒性”
中でも特に人気となったのが薫製ドレッシングだ。興味本位で注文した県外の顧客が「くせになる」とリピーターになった。体に優しい素材を用いて製造しており、かければ芳醇(ほうじゅん)な香りが口の中に広がり、シンプルなサラダでも箸が進む。
17年に薫製にハマった社長の長男が「醤油も薫製にすればいいんじゃない?」と提案したのがきっかけで、境港市の金属加工業に掛け合って専用の機械を発注。生産工程を作った。
味は「好き嫌いが分かれる」(安本社長)ものの、ハマった人をとりこにする”中毒性”がある。少なくとも全国約10万人に注目され、やすもと醤油のコアファン獲得に成功した。
あれから4年。同社は生産ラインを2本にし、従業員も7人から20人に増員した。
それでも受注に十分対応できていない盛況ぶりで、今もホームページでは常に「ソールドアウト」が並ぶ。23年に企画した「バズり3周年記念セット」は、用意した200セットがアップロードわずか15分で完売した。24年の4周年セットは2千組用意し、2日半で完売した。
現在の売り上げはバズり前の3倍。多忙が続く中、従業員に利益の多くを還元しており、23年のボーナスと期末手当は計9・4カ月分になった。安本社長は「基本給が安いからね」と謙遜しつつ「やる気につながってくれるとうれしい」と話す。
新商品開発の手は止めない
「健康を守る美味(おい)しい調味料で家庭の食事を豊かにする」ー。1943(明治18)年から変わらぬ安本産業の理念だ。
同社は今もドレッシングのベースとなる醤油も愚直に作り、新商品の開発の手を止めない。時間を見つけては経営者と従業員が持ち寄ったアイデアを披露し、和気あいあいと研究している。30代後半の”中の人”は「(製造業務で忙しく)発信する時間の確保が難しくなりましたが、フォロワーなど皆さんに引き続き発信したい」と話す。
多忙の中にも充実感をただよわせながら、安本社長は語った。「お客さんにおいしいと言ってもらえるのが一番うれしいんでね。笑顔になってもらえる商品、作っていきます」
(まいどなニュース/山陰中央新報)