幕末から現代にタイムスリップした侍が、時代劇の斬られ役に…低予算のインディーズ作品として制作され、2024年8月に単館で上映スタートしたものの日本映画ならではの魅力が評判を呼び爆発的な大反響。全国380以上の映画館で上映され、数多の映画賞を獲得する大ヒット作となった映画『侍タイムスリッパー』。
脚本、監督等を担当した安田淳一さんや主演を務めた山口馬木也さんはもちろんだが、助演の俳優たちの演技も大きな評価を受けているようだ。
今回お話を聞くのは錦京太郎役の田村ツトムさん。すでにご覧になった方には正式な役名よりも劇中劇での役名「心配無用ノ介」のほうが分かりやすいだろうか。正統派の二枚目俳優という設定ながらコミカルかつインパクトのある好演で、ファンが急増しているようだ。
ーーキャスティングの経緯は?
田村:2022年の初夏に安田監督からオファーをいただきました。監督にはかなり昔、ショートフィルムの撮影で使っていただいたことがありましたが、それきり特にやり取りはしていなかったので「覚えていてくださったんだ」と驚きました。
「インディーズで時代劇を撮りたいんだ」というお話だったのですが、インディーズ作品というと低予算で少人数のイメージ。本当に時代劇なんて撮れるんだろうかと心配になりましたが、台本を読んだらすごく面白いんです。ちょうど以前の事務所を退所してフリーになったところだったので「ぜひ出させていただきたい」と即答しました。
ーー錦京太郎、心配無用ノ介という役柄について。
田村:撮影所の大物二枚目俳優というインパクトある役柄なので、やりがいがあるなと思いました。これまでも時代劇はやってきましたが切られ役がほとんど。ですが今回は劇中劇の主役なので刀の振り方から立ち居振る舞いまで全部違ってくるんですね。東映京都撮影所のベテランスタッフの方に教えてもらって、主役としての振る舞い方を学びました。
ーーヒットの予感というのは初めからあったのでしょうか?
田村:台本を読んで面白い作品になるだろうとは思っていました。それは他のキャストも同じだったようで、撮影中に山口馬木也さんと「どうにかこの作品をいい形で世に出したいよね」と話合ったことがあります。
安田監督は少年のような人。自分の思い描いた絵が撮れるまで何度でもカメラも回すんですよ。例えば真夏に何時間も立ち回りをしてると正直「そろそろしんどいな」となるんだけど、みんなそれを不満に感じず頑張れたのはひとえに台本が光っていたからだと思います。
ーー作品をご覧になった時の感想は?
田村:完成前に大阪・十三のシアターセブンで関係者だけの上映会をしたのですが、僕が作品を初めて見たのはその時です。編集とか音楽とかまだまだ中途半端な状態なんだけど、そんなことはさておきすごく面白かったです。これならちゃんと宣伝さえすればヒットするに違いないと感じました。
でも宣伝にかける資金がないのがインディーズの難しさ。僕からも「海外の映画祭に出品すればいいんじゃないか」とかアイデアを出させていただいたのですが、そうこうしているうちに今年8月にカナダ・ファンタジア国際映画祭で観客賞金賞を受賞。インディーズ映画の聖地と呼ばれている東京・池袋のシネマ・ロサで上映が始まり、そこから火が点いて9月からは全国の映画館で上映が始まりました。あっという間に反響が広がり、今でもピンときていません(笑)。
ーーシネマ・ロサは同じくインディーズから大ヒットした『カメラを止めるな! 』のブレイクのきっかけになった場所だそうですね。
田村:はい、とても映画愛のある支配人がいて映画館自体に熱いファンがついてるんです。初上映で安田監督や馬木也さんが舞台挨拶に行った時、お客さんたちと居酒屋で打ち上げをすることになったんですが、そこで皆さんが「とてもいい作品だった。宣伝のお手伝いをさせてください」とSNSで情報拡散してくれました。『侍タイムスリッパー』のヒットには少なからず、ロサのお客さんたちが貢献いただいたと思っています。
ーーご家族や周囲の方の反応は?
田村:ありきたりですが親戚からの連絡は増えました(笑)。一番嬉しかったのは両親が喜んでくれたこと。これまでも僕が出ている作品は観てくれていたんですが、今回は映画館に行ってすぐ父から電話があって「この映画すごい面白いな!お前やっと作品に巡り会えたな!」といつになく絶賛してくれました。不安定な役者の道に入って心配かけていたので、やっと顔向けできる仕事ができたかなと思っています。
◇ ◇
本作を通し「世界中の人に日本の時代劇の魅力を感じて欲しい」と田村さん。『侍タイムスリッパー』は現在も勢いを落とすことなく全国の映画館で上映中。今後の配信サービス等での展開も楽しみだ。まだ未見という方はぜひお早めにチェックしていただきたい。
【田村ツトムさんプロフィール】
たむら・つとむ1973年12月20日生まれ、大阪府出身。関西のテレビ、商業演劇で活躍する実力派。朝ドラも常連の安定感。二枚目三枚目とも達者にこなす高い演技力。劇中で見せるホームランバッターのような豪快な立ち回りも唯一無二の迫力。決めの所作も自ら発案、緩急のある芝居でキャラクターを魅力的に仕上げ、現場を笑わせた。
(まいどなニュース特約・中将 タカノリ)