Infoseek 楽天

ラーメン生麺が「常温90日」保存可能!? 東日本大震災の支援から生まれた特許技術 食品ロス削減と非常時に頼れる町工場の挑戦

まいどなニュース 2025年1月19日 18時2分

日本人にとってラーメンは、もはやソウルフードとも呼べる存在であり、世界に誇る食文化として認知されています。自分で作るラーメンには、カップ麺、袋麺、冷凍麺、さらには本格的な生麺など、楽しみ方はいろいろあります。特に生麺には、スープが別売りのものや、製麺工場直売所で手に入るマニア向けの逸品も存在し、どれもが独特の魅力を放っています。筆者も製麺工場の直売所で時折購入し、直売所の雰囲気やラーメンの美味しさを楽しんでいます。

しかし、悩みの種となるのが賞味期限の短さです。一般的な生麺は冷蔵庫で冷蔵保存しても賞味期限は10日~20日程度で、1つの袋に複数個入った生麺を購入した場合は、開封後に急いで食べないといけないプレッシャーもあり、「賞味期限が近いから今日もラーメンを食べるか」といったことも珍しくありません。

ところが、常温保存で90日、冷蔵保存なら120日まで美味しく食べられるという驚きの生麺が存在するのです。そんな驚異的な生麺の秘密に迫るべく、開発、製造販売しているフジキン光来の佐藤光男社長にお話を伺いました。

ある貝殻の焼成カルシウムと酒精、それにある成分の絶妙の配合

――生麺の長期常温保存ができる秘密を教えてください

「大手食品メーカーでは60日冷蔵保存可能な生麺や、2~3カ月保存可能な半生麺もありますが、当社の生麺は常温で90日、冷蔵保存すれば120日まで美味しく食べられます。包装自体に秘密はなく開封した状態で保存しても同様に日持ちします。麺が腐るのは水分が存在するからで、水を腐らないようにすればいいのです。そのため、貝殻の焼成カルシウムとアルコール(酒精)、それにある成分を最適に混ぜ合わせることで、滅菌作用が向上して長期保存を可能にしています。この混ぜ合わせる比率を特許出願しているのですが、他の企業からは、「真似されるからやめたほうがいい」というアドバイスを受けたこともありました」

――ある貝殻の焼成カルシウムとはどういうものなのでしょうか?

「貝殻の種類まではお話しできないのですが、貝殻を1000℃以上で焼いて、そば粉と同じくらいの粒度のマイクロパウダーにしたものです。東日本大震災の被災地支援活動中に焼成カルシウムの加工業者と知り合いました。この出会いが焼成カルシウムへの興味を深めるきっかけとなりました。製麺業界では、帆立貝の焼成カルシウムを麺に練り込むことで滅菌効果を高める手法が一般的でしたが、私が採用した方法ではさらに高い滅菌効果を発揮することがわかりました。ただ、この焼成カルシウムは高価で流通量も少ないため、なかなか普及していませんが、東日本大震災を機に、被災者の方々へ少しでも美味しいラーメンを提供したいという思いから研究開発に着手しました。また、この製法は生パスタにも応用していますが、蕎麦は土壌菌がいるため長期保存は難しいです」

――生麺の保存料として使われるのは一般的にはどういうものがありますか?

「生麺の保存に一般的に使用されているものは、先ほど触れた帆立貝の焼成カルシウムやアルコール、それにPG(プロピレングリコール)などがあります。PGの使用量には規制があり、量を増やせば100日以上も常温保存が可能です。しかし、私のところではできるだけ自然由来のものを使いたいので、人工的な食品添加物は使っていません」

貝殻の種類やある成分については詳しく教えてもらえなかったものの、生麺の常温長期保存のポイントとなるのは、貝殻の焼成カルシウムと最適なアルコール濃度とある成分の配合だというのがわかりました。

――常温保存で90日たった生麺にはどういう変化があるのですか?

「長期保存の可否を確認するため外部機に検査を依頼しました。30℃以下の室内で15日ごとに行ったさまざまな検査の結果、90日経過した生麺の水分蒸発率は3%以内で、色や味に変化はなく、食用として問題ないという結果が得られました」

この話を聞いた筆者は、本当に常温で90日持つのか? 見た目や食感、味など変化があるのか? など、とても興味があり、製造したばかりの生麺と、90日経過した生麺を比べて実食してみました。実験は9月上旬に行い、室内温度はエアコンなしだと30℃を超える日もあったため、ちょっと厳しい条件下でした。結論を言えば、見た目も食感も、味も製造したばかりの生麺との違いがまったくわかりませんでした。焼成カルシウムが入っているためなのか、一般的な生麺よりもしっかりとした歯ごたえで、ちょっと粉っぽい感じはしますが、とても常温で90日経過した生麺とは思えない美味しさで、同社で製造したオリジナルスープでいただきました。

フジキン光来の前身は父親が始めた中華料理店

フジキン光来のルーツは、先代が昭和28年に東京中野に開業した中華料理店である「中野光来軒」から始まります。同店の閉店後も味や伝統をたくさんの人に届けたいという思いから、料理人として20年の経験がある佐藤社長が平成10年に製造部門を立ち上げ、現在は中野本社だけなく、千葉工場では餃子、焼売をはじめ各種冷凍食品、大田工場では麺関連の製品を製造しています。製麺所の多くは麺作りに特化しているためスープを作っていないところがほとんどです。一方、同社ではソースやタレの製造もしているため、ラーメンスープも製造しているのです。

さらに、西新宿にはラーメン屋「中華そば 光来」も経営しており、自家製麺はもちろんのこと自社工場で製造した中華食材を提供しています。ラーメンは1杯500円に値上げになったものの、取材時は460円でした。町中華なみのワンコインでラーメンが食べられるのは珍しく、さらに安心安全を掲げていて国産原料にこだわり、ラーメンやうどんの小麦粉はコシが強い北海道産、豚肉、鶏肉も国産を使用しています。

同社は小売りよりも業務用、OEMがメインで、航空会社やホテル、テーマパーク、百貨店、スーパーなどに中華惣菜や麺、パスタソースなどを卸しています。他にも、焼いてから1日経過しても皮がパリッとしていて冷めても美味しいという冷凍食品の「パリッと餃子」は特許を取得しているとのこと。さらに、冷凍なのに食感が変わらない豆腐などもあり、ほぼすべての食品のレシピや製造方法は佐藤社長が考案していて、町工場から数々のアイデアが生まれているのです。

毎月開催される工場市場のセールでは地域住民にも貢献

毎月第3日曜日に中野本社で開催している直売会の「工場市場」も大人気。本格的な中華食品と激安価格だけに夕方前には完売するほどの盛況ぶりで、10時の開店前から100メートルほどの長蛇の列ができるそうです。製麺工場の直売では、3個、4個入りで販売することが多いのですが、同社は個包装で販売。すべての生麺が長期保存タイプではありませんが、例えば生麺1玊65円、フカヒレ丼250円、パリッと餃子400円、海老チリソース290円など、安いだけでなく具も大きくてしっかり入っています。安心安全な食材を格安価格で販売することは地域住民にも貢献していると言えるでしょう。

常温で長期保存できる生麺は、賞味期限切れで本来食べられるのに廃棄される食品ロスを削減できます。また、冷蔵庫が満杯で入らなかったり、冷蔵庫を設置できなかったりする場合でも食品をストックでき非常に便利です。常温保存できるため海外へのお土産としても喜ばれるかもしれません。さらには停電や災害時においても、美味しい生麺が食べられるサバイバルフードとしての需要も考えられます。今後は自社ECサイトでの販売以外にも販路を拡大していくとのことなので、この革新的な技術を開発したフジキン光来の動向から目が離せませんね!

(まいどなニュース特約・鈴木 博之)

この記事の関連ニュース