【速報】
弊社新人、これを見て
「ほんものの保存ボタン!」
とさけぶ。
小学館(東京都千代田区)辞書編集室の公式「X」アカウント(@shogakukanjisho)が投稿した【速報】の内容と一枚の「フロッピーディスク」の写真が大きな反響を呼びました。投稿には記事執筆時で11万件のいいね、がついています。そうか、今や20代にとってこれは「Excel」や「Word」の「保存ボタン」として認識されているのか…!
「フロッピーディスク(FD)」は磁気ディスクの一種です。今回話題になった投稿の写真に写っていた「3.5インチ型」のFDはワードプロセッサー(ワープロ)、パーソナルコンピューター(パソコン)などの外部記憶装置としてかつて広く使用されていました。しかしUSBメモリーなどの台頭によりその使用者数は減少し、10年以上前に国内メーカーによる販売は終了しています。
「マジでExcelとかにある保存のFDマークを指して、コレなんですか?って新人に聞かれたときには『あぁ、ついに・・・』と遠い目しちまいましたよ(笑)」
「今の子にとってフロッピーって電話のマークが黒電話→☏みたいな感覚なんだろうね」
「そういえばフロッピーはとうに廃れたのに保存ボタンのアイコンはフロッピーのままなのも不思議だ」
その存在をなつかしむ声がリプライ欄にあふれました。
投稿をした小学館の辞書編集室に連絡を取ると、「ほんものの保存ボタン!」という叫びを発したのは、一緒に仕事をしている関連会社「株式会社kotoba」(東京都・千代田区)の新入社員の方だったのだといいます。
そこで詳しい話を「小学館・辞書編集室」の坂倉 基(もとい)さん(以下、坂倉さん)と「株式会社kotoba」の新入社員さん(以下、新人さん)にお聞きしました。
「ぽかん」としてしまった
――発見時の状況を教えてください。
(坂倉さん)あのFDはもともと別の編集部員のものでした。その人は私と同世代で、見付けて懐かしくなったのか、こちらに見せてくれたのです。机に置かれたそれを見かけたのが新人という状況でした。より正確には、両名とも関連会社である株式会社kotobaのスタッフです。いま弊社では『日本国語大辞典 第三版』という大型企画を動かしており、「kotoba」のスタッフ含め、一丸となって作業を進めています。その最中でのできごとでした。
――「ほんものの保存ボタン!」という叫びを聞いた時のお気持ちは?
(坂倉さん)机上のFDに発された一言を聞いて、すぐには意味を咀嚼(そしゃく)できず、ぽかんとしてしまったのを覚えています。そして、その思いつきがたいへん鋭くておもしろかったので、何気なくSNSで発信しました。周囲の面々もすぐに気付いたようで、みんなで笑っていました。
「記号」として長く形状が残る
――ジェネレーションギャップが可視化した瞬間ですね。
(坂倉さん)たとえば言葉の世界でも「下駄箱」「筆箱」のように、本来の用途とずれても元の名称が使われつづける現象がよく起こります。このMicrosoft Officeなどのアイコンも、「FDに保存するという」行為は失われても、いまだにその形状を保ちつづけています。「記号」として本来の意味より長く形状が残り、あまり支障なく使われている状況はたいへん興味深いです。
――「概念」として役目を果たし続けている、と。
(坂倉さん)すでにクラウドの時代に移り、PCからメディア用のドライブが失われて何年も経っています。そうした世の中の変化の過程で、アイコン変更の機会を逸してしまったのか、などと想像が働きます。
――ポストに大きな反響がありました、特に印象に残ったコメントはありましたか。
(新人さん)自分の何気ない一言でこんなに反響をいただくとは思ってもおらず、ただただ驚くばかりです。保存ボタンの元ネタがFDだと知識では分かっていても、実際にその姿を見たのは初めてでした。その感動や懐かしさを、たくさんの皆さんと共有できて嬉しいです。
あるあるや苦労などもコメントで寄せていただいて、見ていて勉強になりました。FDを目にする機会がきわめて少なくなってしまった今、改めて保存のアイコンを設定するとしたらと何がモチーフになるのか、というコメントが興味深かったです。
(坂倉さん)自分も、新しいアイコンをどうすべきかというコメントには唸りました。誰もが納得するようなものは、まったく思いつきません。
FDはどうなった?中身は?
坂倉さんの洞察のとおり、「物」が「用を終えても形は残る」というのがすこしせつないような気にもさせられる今回の投稿ですが、それではこの見つかったFDはどうなったのかお聞きすると「元の持ち主の編集部員が言うには、大事に引き出しにしまってあるそうです」(坂倉さん)と答えてくれました。
またその中身については「編集部の何気ない日常のひとコマを、たくさんの方に見ていただいたようで……ありがとうございました。 あのFDの中身は、実は、原稿整理用の正規表現サンプル集でした。メンバーが若手の頃に入手した、思い出のFDです。」というコメントと共に同アカウントから引用ポストもされています。過去から未来へと途切れることなく続く「辞書編纂」という仕事にまつわる思い出の品として、この先ずっと長く残っていくのかもしれないですね。
(まいどなニュース特約・山本 明)