2024年の春先のこと。あるブリーダーから1匹のボーダーコリーがレスキューされました。後に付けられた名前はレイ。オスの元繁殖犬ですが、11歳を越えてシニアの域に達したことで「この犬の役割はもうない」とでもされたのか、全身はアラカスという皮膚病でただれ、適切なケアが全くなされていない状況でした。
10年以上も過酷な環境で過ごしたレイのことを思うと、非道すぎるブリーダーに強い憤りを覚えますが、ともあれここで保護されたことは不幸中の幸いです。レスキューした保護ボランティアさんは、すぐにレイを動物病院に連れて行きました。
11歳という月齢にして強い治癒力を持っていた
獣医師に細かく診てもらったところ、歯もかなり悪い状態で、喉付近にはでき物も。動物病院で触られると怒ってしまうほど痛みもある様子で、治療には口輪が必要でした。
11歳というシニア犬です。人間でも加齢に伴い治癒力が低下するとされますが、レイは持病を克服できるものなのか…。関係者の多くが不安を抱きましたが、レイ自身の治癒力は実に強く、後にただれが治り毛も生えてきました。
この月齢では考えられないほどの健康体に
レイは保護ボランティアさんから静岡県の団体・スリールに保護され、さらなるケアと新しい家族探しをスタートさせることにしました。
あらためて団体かかりつけの動物病院で検診を受けると、すべての項目が正常というわけではないものの、この月齢では考えられないほどの健康体でした。皮膚病の治療は継続して行う必要がありますが、日に日に回復し、同時にレイ自身も本来の明るく活発な性格を見せてくれるようになりました。
一番好きなのは散歩の時間です。うれしそうに歩きまわり、その瞳はいつもキラキラ。悪質なブリーダーの元で10年以上も感じることができなかったであろう「広い世界」を、まるで子犬のように楽しむ姿を見せてくれました。
明るく健康だけでなく、忠誠心も極めて高い天才的なワンコ
団体提携の預かりボランティアさんの家に招かれたレイは、明るい性格の一方で実に賢く人間への忠誠心も極めて優れているワンコであることがわかりました。
常にこの家のママさんの様子をうかがい、「今、ママさんはどんな状況にあるのか」「どんな気分なのか」を瞬時に汲み取り、それに沿った行動をします。ことさら積極的に教え込んだわけではないのに、自然とこういった配慮ができるレイはまさしく天才的なワンコでした。
明るく元気なレイの晩年にこそ「本当の家族」を
こんなに賢く元気なレイですが、「うちにおいで」「迎え入れたい」といった声はかからぬままです。
11歳という月齢を考えれば、現実的にはこの先数年しか一緒にいられず、さらに今後は体のあちこちが衰え、治療なども必要になってくるでしょう。レイの里親希望者さんがなかなか現れないのは、こんなところに理由があるのだと思います。
当のレイは日を重ねるごと、どんどん若返るように機敏になり、笑顔を見せてくれるようにもなりました。その強い生命力は関係者までを感動と勇気を与えるほどで、預かりボランティアさんは「いぶし銀に輝いている」とも言います。
生き抜き、そして輝き続けるレイの晩年がいっそう幸せに満ち足りたものであることを願ってやみません。
(まいどなニュース特約・松田 義人)