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20年同棲したパートナーが入籍直前 事故死…「遺産相続できるのでしょうか」【行政書士が解説】

まいどなニュース 2025年1月12日 18時0分

20代のころに職場で知り合ったAさんとBさんは、かれこれ20年間生活を共にしています。初めて一緒に取り組んだ仕事のプロジェクトをきっかけに恋に落ち、同棲を始めてから長い年月が過ぎていました。

2人の間には子どもはいないものの、互いに支えあい、時には喧嘩もしながら、事実上の夫婦として歩んできました。

そんなある日、Aさんは「そろそろ籍を入れようか」とプロポーズし、Bさんは優しく微笑みながら頷きます。プロポーズがおこなわれた日は、2人が同棲を始めた記念日まであと1か月という日だったため、同棲記念日に入籍することを決めて、2人は準備を始めます。

しかし記念日まで1週間後に迫る中、なんとAさんは仕事帰りの事故に巻き込まれ、帰らぬ人となってしまいました。突然の出来事にBさんは茫然自失の状態に陥りました。20年間共に過ごした大切な人を失った悲しみは、言葉では表せないほど深いものでした。

悲しみに暮れる日々の中、現実的な問題が浮上してきます。2人が住んでいたマンションはAさん名義であったため、Bさんはマンションを出ていかないといけないという点です。2人は籍を入れる前だったため、正式な夫婦ではありません。この場合、BさんはAさんの遺産を相続できるのでしょうか。北摂パートナーズ行政書士事務所の松尾武将さんに聞きました。

ー籍を入れていないと相続人にはならないのでしょうか

相続手続きをおこなう際には、相続人が誰なのかを特定しなければなりません。相続人になるべき人は民法によって定められています。配偶者は常に相続人となり、ほかの人は以下の順序で相続人となります。

第1順位:被相続人の子ども
第2順位:被相続人の直系尊属(父母や祖父母)
第3順位:被相続人の兄弟姉妹

事実婚上のパートナーとはいえるものの、法律上の配偶者ではありません。当然、上記の相続人の条件も満たしていません。このような場合に法律婚における離婚の際の財産分与に関する768条の規定を類推適用することが出来ないかが一部議論されていますが、残念ながら、現状ではAさんの財産を相続することはできません。

ー婚約者に財産を遺す方法はありますか

もし、入籍前の婚約者に財産を遺したいのであれば、AさんとBさんとの間で死因贈与契約を結ぶか、より一般的なものとして遺言書にその旨を書くべきだと考えます。民法964条で「遺言者は、包括又は特定の名義で、その財産の全部又は一部を処分することができる」と定められています。つまり、遺言によって自らの財産権を渡す、一種の贈与をすることができるという意味です。これを「遺贈」といい、誰に対しても行うことができます。

死因贈与契約も遺言も当事者の死亡を機会とする贈与といえますが、死因贈与契約の場合は当事者間の合意が必要となる一方、遺言は当事者間の合意がなくとも成立する点に大きな違いがあります。

Bさんのように後悔することのないよう、思い立った時、不安が残る時に遺言書を作成するなどの手立てを講じておくことをおすすめします。

◆松尾武将(まつお・たけまさ)/行政書士 大阪府茨木市にて開業。前職の信託銀行員時代に1,000件以上の遺言・相続手続きを担当し、3,000件以上の相談に携わる。2022年に北摂パートナーズ事務所を開所し、相続手続き、遺言支援、ペットの相続問題に携わるとともに、同じ道を目指す行政書士の指導にも尽力している。

(まいどなニュース特約・八幡 康二)

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