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ひとり暮らしの93歳男性「車が動かない」→理由に恐怖した隣人、取った行動は? 「英断の中の英断」「それで救われた命があります」

まいどなニュース 2025年1月29日 7時5分

近所の90代男性から「車が動かない」と言われて見に行くと…。まさかの事態に、心配になった投稿主が、相談したのは民生委員でした。

知っているようで知らない、民生委員とは? 投稿主と、全国民生委員・児童委員連合会 事務局に取材しました。

nao_rinrinさんはXで「去年、近所のお爺さん(93歳)が私に『車が動かないから見てくれ』と頼んできた」と投稿。その男性は一人住まいで、息子さんは遠方に住んでいます。nao_rinrinさんは車を確認しましたが問題なし。しかし、恐るべきものを目にしました。

「実はお爺さんが思いっきりブレーキ踏んでた」

今回のエピソードの際にnao_rinrinさんが引用投稿したのは、2019年に発生した「池袋暴走事故」の遺族の投稿。10人が死傷し、加害者は当時80代後半、原因はまさにブレーキとアクセルの踏み間違いでした。

同様の原因による80~84歳・85歳以上のドライバーによる死亡事故が65歳未満のドライバーよりも割合が高いことが近年問題視されています(※1)。


「アクセルはこっちですよ」と言おうとしたnao_rinrinさんですが、凄惨な事故について思い出し、「いや、そうじゃないと思って民生委員にLINEで相談しました」。その結果、男性は息子さんと免許を返納したそうです。

その判断に対して、「英断の中の英断です」「きっとそれで救われた命があります。ありがとうございます」などのコメントが寄せられ、「素直に免許返納した人も良かったです」「免許返納する決断のできるお年寄りは偉い!」と男性の行動を評価する声もありました。

民生委員に相談したのはなぜ?

男性の免許返納に、重要な役割を果たした民生委員。厚生労働大臣から委託された非常勤の地方公務員(ボランティア)で、担当する地域の住民からの相談を受けて行政や支援などにつなぐ、高齢者や障がい者の見守り・安否確認などを担っています。
また、児童福祉法により児童委員も兼ねることが定められており、妊娠中の心配ごとや子育ての不安に関する相談や支援も行っています。

nao_rinrinさんがたまたま日頃から民生委員との付き合いがあったことから、相談先として浮かんだとのこと。「彼女はご近所さんで、お互いの子どもの付き合いもあり、民生委員さんとして日頃から親身になって話を聞いてくれ、LINEでも繋がっていました」

また、「彼女がお爺さんと話をしてるのを見かけていたので、相談するのがベストだと思いました」。その結果、民生委員は、息子さんが来たタイミングで男性とともに相談し、民生委員、地域の高齢者をサポートする地域包括支援センターの職員、介護施設の職員などを交えて話し合いの場を持ったそうです。

自身が地方都市に住むことから、nao_rinrinさんは「運転免許返納をスムーズにするには、地域の協力体制やコミュニティバスなどが揃ってこそだと思います。今回の件を通じて、民生委員さんの仕事について広く知られるようになったら、ひとりで悩んでいる人が助かるのではないかと思います」と話してくれました。

知ってるようで知らない民生委員。どんな役割? どこで会えるの?

どうすれば民生委員に連絡がとることができ、どんな内容が相談できるのか。全国民生委員・児童委員連合会 事務局の平井さんに聞きました。

「民生委員は、人格識見が高いこと、地域の実情に通じていること、社会福祉の増進に熱意があること、推薦を受ける市町村に居住していることなどの要件があります」と説明したうえで、「行政機関の業務に協力する公務員でもあり、地域住民の身近な相談相手として、民間のボランティアとして住民と行政との橋渡し役を担います。単にご近所さんと違うのは、公務員として守秘義務が課せられているので、安心して相談できるところです」と役割について解説。

ボランティアと聞くと、やる気のある人が立候補していそうですが、「市町村には民生委員推薦委員会というのがあり、そこで選ばれます。町内会や自治会が推薦母体になることが多いです。選ばれた民生委員を推薦委員に挙げて、市町村が都道府県に、そこから国に。最終的には、厚生労働大臣が委嘱するのです」。

町内会や自治会、地域活動やPTAなど、地域で活躍していた人が選ばれる傾向になり、年齢は75歳までという国の目安となる基準もあるそうですが、「日本自体の高齢化が進んでいますので、民生委員の方も高齢化しています。高齢化率の地域差もかなり大きいので、自治体によって弾力的に運用されています。75歳の基準どおりに運用しているところもあれば、もう少し上に設定しているところや、下げているところ、上限を定めないところもあります」。

相談を受けた民生委員は、例えば高齢者に関することなら地域包括支援センター、子どもに関する問題なら子ども家庭センター、さらにNPOや学校等などにつなぐこともあるそうですが、「解決する役割はないんです」と、あくまで「つなぎ役」とのことです。

スーパーや子ども食堂に相談窓口を設けることも

「民生委員はそれぞれ担当地区を持っていて、訪問などを行っています。地区内の世帯数が200ほどまで、都心なら500くらいになることもあり、かなり多いので1世帯ずつ見守ることはできません。ですので、高齢者のひとり世帯や介護されている人がいる世帯などを日頃から気に掛けている世帯を『見守り世帯』としています」

今回の場合は男性が高齢だったこともあり、「免許を返納した方は『見守り世帯』の方だったのかもしれませんね。民生委員との関係の中で、息子さんの連絡先を、男性か、息子さん本人が『なんかあったら連絡してくださいね』と伝えていたかもしれません」と推測。

そんな背景があった可能性が高いとはいえ、nao_rinrinさんのような、本人でも家族でもない人が相談しても大丈夫なのでしょうか?

「最近はボランティアや町おこし、趣味の集まりなど地域住民による地域活動も様々なものがあります。人と人との交流の場などを通じて、周辺に住む人や地域にネットワークを持っている人から『どこどこの誰々さんが大変そうですよ』と連絡が入って、民生委員が訪問して関係機関につなげるケースもあります」

相談は電話で受けるケースがあり、行政が知らせていた民生委員の電話番号や行政の番号(連絡があった場合は行政が民生委員に伝える)を通じて電話がかかってくることもあるそうです。

窓口からの相談もあり、「自治体によりますが、行政や、社会福祉協議会が相談窓口を設けることも。人が多い街なかのスーパーに『何か困りごとありませんか』といった窓口や、民生委員が子ども食堂のような地域活動と協力して、訪れるお父さんお母さんに困りごとなどを聞き、関係機関につなぐケースもあります」。

「何で解決してくれないんですか」と言われ負担

民生委員の活動を含む厚生労働省の統計「福祉行政報告例」に掲載され、2022年では「在宅福祉」「介護保険」「在宅福祉」「健康・保険医療」や「子どもの地域生活」に分類されるものが多く、高齢者に関する分野の相談が多くなっているそうです。

「投稿されたのは相談が解決につながって良かったケースだと思うのですが、民生委員の負担が大きくなっていて、なり手の確保に課題があるんです」と、現在抱えている問題を憂慮。

その負担のなかには、「行政や専門機関につなげる」という本来の役割から離れた相談の対応を迫られることもあるそうです。「例えば、庭とかお部屋が汚れてしまって、業者に頼むとお金がかかるからという理由で民生委員に『私、困っているので片づけてくれますか』と相談に来るようなケースです」

また、民生委員の役割を正しく理解しないままの相談は精神的な重荷になってしまう場合もあるそう。「『相談すれば解決しますよね』と思い込んで相談される方もいます。今ある制度で解決できない、難しい問題もあります。それを、『何で解決してくれないんですか』『どうしてくれるんだ』と言われることも」

あくまでも民生委員は地域住民から相談を受けてつなぐのが役割。社会福祉協議会など地域のさまざまな機関から配布物や調査への協力を依頼されることもあるそうですが、実際に解決するための役割は担いません。多忙化したり、精神的な重圧が増えたりすれば、ボランティアであるがゆえに、引き受ける人もいなくなってしまうのではないでしょうか。

民生委員を巡る現状について、「名前だけは知られるようになってきているのですが、使命や役割というものを広く知ってもらうという重要性を強く感じています。また、民生委員の方からは、活動を通じた楽しさや喜びが大きいことも多く聞いているのでそのこともぜひ知ってほしいです」と話してくれた平井さん。

「民生委員の活動内容が『つなぎ役』だと正しく知ると、自分が相談する場合も、行政や専門職、NPOなどの関係者が民生委員と連携・協働する場合も、その問題の解決の早道になるのではないかと思うので、より多くの方に民生委員の役割と活動の理解が深まってほしい」と思いを語ります。

◇ ◇

ご自身、近隣の人についての生活課題について、ひとりでは解決できずに相談したいこともあるでしょう。そのようにお住いの自治体の民生委員に相談したいことがある場合は、あくまでも「パイプ役」であることを理解したうえで、市町村の行政にお問い合わせください。

(※1)参考 内閣府 令和5年度交通事故の状況及び交通安全施策の現況 特集 高齢者の交通事故防止について 第1章 高齢者の交通事故の状況 第3節 高齢運転者による交通死亡事故の状況

(まいどなニュース/Lmaga.jpニュース特約・谷町 邦子)

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