野良猫を家に迎え、馴染ませるのには大きな困難が伴う。だからこそ、愛猫が少しずつ心を開いてくれる様子には、涙腺が緩む。くろとらたきびさん(@takibi_kurotora)は保護から3カ月後、愛猫むすびちゃんを初めて撫でることができ、涙した。
地域猫に混じってご飯を得ていた外猫を保護
出会いは、2024年6月。特定の地域猫(※地域住民によってお世話をされている外猫)にご飯をあげている近隣アパートで、むすびちゃんは残飯を得ていた。
「まだ幼く、毛が濡れた状態でお皿に顔を突っ込んでいました」
その日は逃げられてしまったものの、普段はコンビニのゴミを食べている様子を見かね、保護を決意。翌月から餌付けを開始し、8月前半に保護することができた。
外猫生活の中でかすり傷は負っていたものの、幸いにも病気や怪我はしておらず。ただ、怯えた様子であったため、お迎え後はケージをバスタオルで覆って暗くし、落ち着くまではご飯とトイレのお世話以外は近づかないようにした。
「昼間はじっとしていましたが、夜になると暴れて鳴き続け、何度もケージをこじあけて脱走しました」
むすびちゃんは、高所や狭いところに逃げ込むことも。飼い主さんは隣室で2週間ほど、ほぼ寝ずに様子を見守った。
手に「名誉の勲章」を作りながらの人馴れ訓練
心の距離を近づけるため、飼い主さんは人馴れ訓練に用いられることが多い孫の手や革の手袋などを使ってスキンシップを試みる。しかし、むすびちゃんは人間の手をひどく怖がり、威嚇と攻撃を繰り返すのみだった。
それでも飼い主さんはおもちゃで積極的に遊び、ストレスや運動不足が解消できるように心がけたそう。
「初めは遊び方が分からず、猫じゃらしから逃げていましたが、理解してからは何時間も遊んでくれました。遊びの中で手に近づく瞬間があり、人馴れが少しずつ進んでいきました」
夢中で遊んでいる間に背中をひと撫でできた時は、幸せを感じた。だが、むすびちゃんの警戒心はなかなか薄れず、スキンシップに気づかれると噛みつきや猫パンチ。手には愛しい生傷が絶えなかった。
「とろみ系おやつの力も借りました。初めは孫の手に乗せてあげ、食べるようになったら距離を短くしていって、最終的には指であげることができるようになりました」
保護から126日目に初めて撫でることができた!
初めて撫でることができたのは、保護から126日目のこと。
「突然のことだったので、『え?なんで?いいの?』という気持ちが真っ先に出てきて、その後に嬉しい、受け入れてくれてありがとうという想いがじわじわ湧いてきました」
その後、距離はどんどん縮まっていき、名前を呼ぶとお返事をしてくれるように。
「撫でてほしくて顔や体をすりつけてくるようにもなりました。撫でている間は常に喉を鳴らしています。膝の上で30分ほどまったり過ごすこともあります」
むすびちゃんにはユニークな一面もある。撫でている時に、「かわいいちゃんはどこにいますかー?」と声をかけると、振り向いて「あっ」という独特な鳴き声でお返事をしてくれるのだ。
「ご飯を持っていくと、毎回甘え鳴きと威嚇を交互に繰り返すのも面白い側面です。シャーシャー言うのが癖になっているようです」
むすびちゃんと心を通わせる中で飼い主さんが痛感したのは、「うちの子」と向き合うことの大切さだった。
「良いとされる人馴れ訓練法は玉石混淆なので、ネット検索するよりも根気強く愛猫と向き合い、苦手なものや好きなものを知ると接し方が見えてくると思います。もし悩んでいる方がいらしたら、他の子の人馴れ具合と比較せず、距離を縮めてほしいです」
なお、飼い主さん宅には先住猫たきびくんがいるが、むすびちゃんとはフェンス越しに対面を果たしたものの、直接触れ合うまでには至っていないそう。繊細なたきびくんは、むすびちゃんがいる部屋に向かって威嚇などをしているため、今後はメンタルをケアしつつ、慎重に進めていきたいと考えている。
たきびがむすびを自然に受け入れられるようになるまで、全力でサポートしていきたい。そう話す飼い主さんにとって2匹は何にも代えがたい存在。彼らが家族の絆で結ばれ、共に過ごす姿が見られる日が待ち遠しい。
(愛玩動物飼養管理士・古川 諭香)