営業所長への抜擢に胸を躍らせていたAさんは、新しい職場で所員の声に耳を傾け、働きやすい環境づくりに奔走していました。本部への改善要望や新たな方針の提案など、精力的に取り組む姿は周囲からも高く評価されています。
しかし好事魔多しとはよくいったもので、ある日の出張先でAさんは思わぬ誘惑に負けてしまいます。晩酌のために訪れた居酒屋で、偶然出会った女性と一夜の関係を持ってしまい、彼の人生を大きく揺るがすことになりました。帰宅後、妻の鋭い勘が働き、Aさんの様子の変化に気づいたのです。
妻からの追及をかわしきれず、Aさんは観念して事実を告白しました。「たった一度の過ちだから」と必死に謝罪を繰り返しますが、妻の表情は氷のように冷たいままでした。
たった一度の過ちが判明して以来、家庭内の空気は凍りついたままです。妻は最低限の会話しかせず、Aさんへの態度は明らかに変わってしまいました。食事の味付けは極端に薄くなり、洗濯物は別々にされてしまうようになったのです。
Aさんは仕事に打ち込むことで現実から逃げようとしましたが、家庭の問題は彼の心を蝕み続けます。営業所の業績が上がっているのとは逆に、彼自身の心は沈んでいくばかりでした。
妻は離婚する気はないと言うものの、このままでは針のむしろのような生活が続いてしまいます。Aさんは妻の信頼を取り戻すため、どうすればいいのでしょうか。夫婦関係修復カウンセリング専門行政書士の木下雅子さんに話を伺いました。
ー妻の信頼を取り戻すためにやってはいけないことはありますか
Aさんは「たった一度の過ちだ」と言い訳をされていますが、これは全くの逆効果です。妻からすれば一回でも何回でもアウトはアウトだと論破されてしまいます。ほかにも浮気をした人は「魔が差した」「本気じゃないから」「風俗だから」といった言い訳をしがちですが、これらの言い訳はすべて論破されてしまい、逆効果となってしまいます。
最もやってはいけないのは「逆ギレ」です。「だったらどうしろっていうんだ!」とキレてしまえば、妻の態度は益々硬直化するでしょう。
また離婚しないからといって妻が夫を許したわけではないのです。あくまでも離婚の手間と現状維持を天秤にかけて、婚姻の維持を選んだという点を忘れてはいけません。
ー円満な家庭を取り戻せた夫には何か傾向はありますか
人の怒りはいつまでも続くわけではありません。責められても冷静に謝罪し、怒りが収まるのを耐えるしかないでしょう。その上で継続できる範囲で家事や家族サービスをおこないます。短期での解決は難しいと理解し、落ち着いて長期的な視点で取り組めた人が、妻の信頼を取り戻す傾向があります。長期的な視点を持って、粘り強く行動を続けることが重要です。
◆木下雅子(きのした・まさこ)行政書士、心理カウンセラー。大阪府高槻市を拠点に「夫婦関係修復カウンセリング」を主業務として活動。「法」と「心」の両面から、お客様を支えている。
(まいどなニュース特約・長澤 芳子)