「大手企業に入社できたらうれしいけれど、正直ガクチカ(「学生時代に力を入れたこと」の略)に自信ないし、成績もパッとしない。さすがに難しいと思うので、ちょうどよさそうなオススメの会社はありませんか…?」
そんな学生さんの声を聞くことがありますが、企業規模や初任給、応募倍率といった条件だけで志望先を選ぶと、入社直前になって思わぬ不安に直面することがあります。関東在住のAさん(20代、学生)は、内定式で思わぬ事実を知ることになりました。
公務員狙いだったけど…秋から民間就職へ切り替えた
もともと公務員志望だったAさん。1年前から試験勉強に力を入れてきました。
大学入学時はコロナの影響でサークルや部活の新歓イベントが少なく、気になる団体を見つけられないまま所属の機会を逃しました。実家暮らしで趣味も特になく、単発バイトを時々する程度。ゼミが必修でない学部ということもあり、学生生活は「ほぼひとり」でのんびりと過ごしていました。
そんなAさんは、3年生になると「文系で就職するなら、営業か事務がほとんどだけど、営業は向いている気がしない。民間企業への就職はなんとなく厳しそう…」と考え、公務員試験一本に絞ることに。
幸い試験勉強は苦にならず、毎日少しずつコツコツ勉強を進め、地方公務員の上級職試験と、いくつかの専門職試験を受けることにしました。ただ、どの試験も一次の筆記は通過するものの、二次試験の面接ではうまく答えられず、残念ながらすべて不合格に終わりました。
事務職を募集している地元企業を探してみたら…
「やっぱり公務員でも『大学時代にいちばん力を入れて取り組んだことは何ですか』って聞かれるんだな…」と、落ち込んだAさん。しかし浪人して翌年に公務員試験を受けるようなことはせず、民間企業への就職活動を始めることに。
「売り手市場」と言われるだけあって、大学に来る求人票の数も多く、地元のハローワークでも新卒向けの求人を多数見つけることができました。意外にも「経理」「総務」といった事務系職種の募集も多く、興味の持てる企業をいくつか見つけました。
公務員試験での反省を活かし、大学のキャリアセンターやヤングハローワークで面接の練習を重ねたAさん。4年生の秋に、無事内定を得ることができました。
しかし、内定式に出向いたAさん。がらんとした部屋に案内され、衝撃の事実を聞かされました。
「今日は内定式ですよね? ほかの内定者の人は…?」
「実は、ほかに内定していた人たちは、みんな辞退してしまって…。現時点ではAさんおひとりです。追加募集をしていますが、なかなか応募がなくて。ところでAさんは、経理として応募いただいていましたが、ほかに興味のある仕事はありますか? 営業の仕事とかはいかがでしょう?」
まさかの「同期ゼロ」に言葉を失ったAさん。営業の仕事に回されそうな不安を感じたこともあり、結局その会社を辞退し、再び就活を続けることにしたそうです。
「その後、地元ではそこそこ歴史があるメーカーの追加募集を見つけました。人事の方に確認すると、内定者は4人いるとのことです。さすがに今から全員辞退することはないはず…と思っていますが、入社式までは不安です」と話していました。
採用予定人数を充足できない企業が多数
東京商工会議所が行った「新卒者の採用・選考活動動向に関する調査」によると、2025年新卒者の採用計画に対する充足率は以下のようになっています。
100%超……3.3%
100%……8.6%
70%~99%……22.9%
50%~69%……17.6%
30%~49%……13.3%
1%~29%……14.3%
0%……19.9%
…なんと、約半数(47.5%)の企業が「充足率50%未満」の状態です。入社まで、学生はもちろん、企業の採用担当者も気が抜けない日々が続きそうです。
【参考】
▽東京商工会議所/新卒者の採用・選考活動動向に関する調査
◆沼田 絵美(ぬまた・えみ)人材業界や大学キャリアセンター相談業務などに20年以上携わる国家資格キャリアコンサルタント。