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人気高まる「ペットツーリズム」 愛犬と富岡製糸場に行ってみた

毎日新聞 2024年6月30日 8時30分

 世界遺産登録から10周年を迎えた富岡製糸場(群馬県富岡市)は、2023年からペット連れの入場を受け入れている。25年大阪・関西万博でもペットの同伴が認められるなど、「ペットツーリズム」の人気は高まっているが、愛犬と楽しめる世界遺産とはどのような場所なのか。24年5月に愛犬を連れて前橋支局に着任した記者は、わくわくと、犬連れでも楽しめるだろうかという少しの不安を抱えて現地に向かった。【加藤栄】

 6月初めのある日。上信電鉄上州富岡駅近くの無料駐車場に車を止め、愛犬のミニチュアシュナウザー「カポ」を車から降ろすと、雲一つない青空が広がっていた。正午ごろに到着したが、日差しが強烈だ。後で調べると、この日は最高気温が26度を超えていた。舌を出して暑がる愛犬を抱き、日傘を差して富岡製糸場を目指した。

 商店街を通ると、入り口に赤や青色のステッカーが貼ってある。ペット連れでの入店の可否が一目見て分かるのは、ありがたい。駐車場から10分ほど歩くと入店可のまちなか観光物産館「お富ちゃん家」を見つけた。中にいたスタッフと目が合うと、笑みを浮かべてくれたので入ってみた。

入場にはペットカートが必須

 「かわいいですね。ペットカートですね」。物産館ではペット用のカートを1日500円で貸し出している。富岡製糸場にペット連れで入場するためにはカートに乗せる必要があるのだ。カートを借り入場券も購入し、製糸場では屋外からの見学しかできないことや、ペットが苦手な人に配慮してほしいなどの説明を受けた。建物内に入れないのは残念に感じたが、説明が丁寧で疎外感などはなかった。

 物産館から約5分、ペットカートを押して場内へ入る。受け付けもスムーズで、驚かれたり、けげんな顔をされたりすることもなく入場できた。愛犬のカポもキョロキョロとしながら、「興味深いところにきた」というような表情を浮かべている。

 入って正面の東置繭所のアーチ下にあるベンチに座り一休みし、西置繭所を目指す。

 場内は砂利道のためカートが押しづらい部分もあったが、所々にスロープなどが設置されていたので困らなかった。道が狭いところでは、行き交う人やスタッフがにこやかな表情で犬に目を向けてくれたので、居心地良く感じた。西置繭所の前でカートを止め、記念撮影をした。

 ただ当然だが、建物の中には入れないので、歴史的価値を学ぶことはできない。全長104メートルある西・東繭置所の大きさや、外からでも少し見えた繰糸所の機械が並ぶ様子には感動したものの、それがどんな役割を果たしたのかはよくわからなかった。

 繰糸所から出てきた人の中に、スマートフォンを見て何やら楽しそうに話している家族がいた。「動画がすごい」という声も聞こえる。同行者に一旦カポを預けて繰糸所に入ると、入り口近くに動画の案内があった。QRコードを読み取ると、富岡製糸場と同じタイプの機械を使って製糸をしている動画が流れた。動画の案内が施設外にもあれば、ペット連れで中に入れなくても富岡製糸場について学べると思った。

 フランス人指導者の自宅だった首長館や社宅も回り、いろいろと記念撮影をして満足し、駐車場への道中にあるカフェのテラス席でカポと一緒に食事を取った。そして近くの店で犬用のジャーキーを買ってカポにもあげた。場外もペット連れで十分楽しめると感じた。

2023年は約900匹が入場

 多くの人に訪れてもらおうと、富岡製糸場(富岡市)は23年3月からペット連れを受け入れている。体重20キロ以内の犬と猫が入場可能で、ペットカートやキャリーバッグの使用が条件になっている。

 富岡市富岡製糸場課によると23年は882匹、24年は5月末までに424匹が入場した。ほとんどが犬だが、猫を連れてくる人もいるという。

 ペットカートから降ろせなかったり、建物の中に入れなかったりするのは惜しい気もするが、大崎渉課長によると動物が苦手な人がいたり、世界遺産や国宝となっている建物をペットの排せつ物で汚されたりすることなどを考えると致し方ない措置だという。

 貴重な世界遺産を後世に残すためには、一時的な楽しみだけではなく、観光客側もルールを理解して守る必要があると思った。【加藤栄】

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