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「子育て、きつい思いしている人へ」 子を一時保護された母親が講演

毎日新聞 2024年6月30日 18時8分

 子どもを児童相談所に一時保護された経験がある母親と、保護や支援に携わった元県警職員が、当時の体験や心境を語る講演会が6月29日、福岡市東区であった。現在はスクールソーシャルワーカーとして問題を抱えた子どもの環境改善などにあたる堀井智帆(ちほ)さん(47)は、虐待を繰り返さないためには「親を徹底的に支援することが重要だ」と語った。

 講演会では、県内の20代の母親と堀井さん、自立援助ホームの男性職員(39)が登壇した。母親は10代のころ、出産間もない第1子を放置したとして児童相談所に第1子を保護され、当時は県警職員だった堀井さんと男性職員が、今は夫や第1子を含む子ども4人と暮らす母親と関わり続けている。

 母親の家庭を巡っては第1子の保護後も虐待を疑う通告があり、関係機関の会議では「下の子も保護すべきだ」という意見があった。男性職員や児童相談所の担当者は「何かあったら頼ってね」と母親に伝え、慎重に様子を見つつ保護は見合わせた。堀井さんや男性職員は、生活が昼夜逆転していた母親の就労も支援。母親が働く中で自らの生活上の課題に気付くことによって、育児も安定し、虐待を疑う通告もなくなった。新型コロナウイルス禍による外出制限で育児が行き詰まった時は、母親が「助けてほしい」と男性職員に電話し、児童相談所が子どもを期限付きで預かったという。

 男性職員は、通告がありながら保護を見合わせた当時、母親の育児に対する態度に変化を見ていた。男性職員は「(母親の育児に)不安はあったが、そこで保護すると母親の『みんなの助けを借りてしっかり育てたい』という気持ちを自分たちが刈り取ってしまう。保護が母親や子どもたちのために本当にいいのかと考えた」と振り返る。堀井さんは「さまざまな事情で『子どもをかわいい』と思えないことは誰でも起こりうる。その時に『助けて』と言えることが虐待防止につながる」と語った。

 母親は「第1子が生まれた時、現在のように大事に育ててあげられなかった後悔がある」という。講演を引き受けた理由として「今、子育てできつい思いをしているお母さんに、男性職員や堀井さんのように否定せず味方になってくれる人たちがいることを知ってもらえたらいいと思った」と話した。

 講演会は県警や県少年警察ボランティア協会が定期的に開く「少年健全育成ボランティア大会」の企画。非行少年の約9割は虐待や家庭内暴力などの逆境体験を幼少期に経験しているという分析があり、講演には県内の少年補導員ら約500人が訪れた。【佐藤緑平】

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