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摂食障害に悩むあなたに居場所を 経験者がこだわる「心地よさ」とは

毎日新聞 2024年7月3日 7時0分

 体重などを気にして十分な食事がとれない。逆に、過剰に食べて嘔吐(おうと)をしたり、下剤を服用したりしてしまう――。食べる行動に異常が伴う摂食障害は、患者によって表れる症状が異なる。そんな摂食障害の当事者だからこそ分かる視点で「症状に悩む人が一息つける場所を作りたい」と活動する2人の女性がいる。2022年7月に団体を立ち上げ、約2年。「細く長く活動したい」と誓う。

 専門学校生の本城遥さん(25)=堺市=と大学院の研究生、池原成望(なるみ)さん(24)=京都市=。本城さんは過食嘔吐に、池原さんは拒食と過食に、それぞれ苦しんだ経験を持つ。2人とも入院や人間関係などを機に、現在は症状が落ち着いた「寛解」状態にあり、症状に悩む人が、ストレスなく集える居場所作りをしている。団体の名前は「igokochi(いごこち)」だ。

 ホームページやネット交流サービス(SNS)で参加者を募り、オンラインや対面で時間を過ごす。対面の場合は年に3~5回程度、関西地方のレンタルスペースで集まる。決まっているのはそれだけで、そこから先は参加者の自由だ。症状について話してもいいし、関係のない世間話をしても、ボードゲームや動画鑑賞をしてもいい。参加者一人一人が居心地良く過ごせる空間を作ることが目的だからだ。

 摂食障害は、食事や突発的な過食衝動への不安が常にあり、悩みを共有しにくいために孤独を感じるケースが多い。本城さんもつながりを求めて自助グループに参加したことがあるが、経験談を話すよう求められ居心地の悪さを味わった。自分の話がどう受け取られるのか不安に思ったり、他の人の話と自分の症状を比べてしまったり、終始落ち着かなかったという。

 「閉鎖的な感じがして、自分には合わなかった。居心地良く過ごせる場所として、違う形があってもいいよなと思ったんです」と本城さんは語る。

 レンタルスペースを使うのは、カフェなどと違って飲食物を注文しなくていいため。突然の不調に備え、直前のキャンセルも歓迎する。1回のみの参加や途中で退席することも可能だ。本城さんは「みんな症状を抱えていると思うと何となく気を張らず、肩の力を抜ける」と話す。

 23年はオンラインと対面で計12回開催し、40人が参加したという。拒食に悩んでいたオンラインの参加者が、画面越しに小さなお菓子を口に運んだことなどもあったといい、「心地の良さを感じてもらえているなら何より」とほほえむ。

 他の団体やグループとはひと味違う居場所となることで「当事者の選択肢を増やしたい」と力を込めて語る2人。「利用したい時に思い出してもらえる場所になり、症状緩和につながる一つのきっかけになれば」と願っている。【小林杏花】

摂食障害

 食事に関する異常行動が伴う精神疾患。過度な痩せ願望や体形へのこだわりがある場合が多く、明らかな低体重なのに過度な食事制限や過食嘔吐(おうと)を続ける「神経性やせ症」や、食のコントロールができずに過食を繰り返してしまう「神経性過食症」などがある。低栄養や嘔吐などから腎不全や不整脈などの合併症を引き起こす恐れもある。厚生労働省の「精神保健福祉資料」によると、医療機関にかかっている患者数は約22万人(2021年度)と推計されるが、受診していない潜在的な患者も多くいるとみられる。年代や性別などに関係なく誰でも発症し得る。

主な相談先

 宮城、千葉、石川、福井、静岡、福岡の6県に摂食障害支援拠点病院が設置され(2024年3月末現在)、患者や家族からの相談を受け付けている。

 そのほか、摂食障害全国支援センター(https://edcenter.ncnp.go.jp/)が運営する相談ほっとライン(047・710・8869)などがある。

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