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憲法を生んだ「二人の鈴木」とは 出身地の福島でシンポジウム

毎日新聞 2024年7月3日 8時30分

 福島県出身の「二人の鈴木」が日本国憲法の制定に影響を与えていた――。そんな戦後史の断面に光を当て、憲法の未来を探るシンポジウムが13日に福島県南相馬市で開かれる。「二人の鈴木」とは何者なのだろうか。

 シンポジウムのタイトルは「憲法を生んだ二人の鈴木―福島から始まる戦後史」。「二人の鈴木」の一人は南相馬市出身の鈴木安蔵(1904~83年)、もう一人は白河市出身の鈴木義男(1894~1963年)。安蔵の提唱で1964年に創立された憲法理論研究会が主催する。会の創立60周年と安蔵の生誕120年を記念し、二人を生んだ福島県での開催を企画した。

 安蔵は現在の南相馬市小高区で生まれ、県立相馬中学(現在の相馬高校)から仙台市にあった旧制第二高等学校に進んだ。哲学を学ぼうと京都帝国大(現在の京大)に入ったが、マルクス主義の活動に関わったことで治安維持法違反容疑で逮捕された。憲法学の研究に転じ、戦後間もなく、知識人らによる「憲法研究会」に参加して幹事役を担った。そこで起草された「憲法草案要綱」は国民主権など民主的な性格が強く、連合国軍総司令部(GHQ)が改正案作りで参考にし、日本政府の改正案につながっていったとされる。

 義男は父が牧師で、現在の白河市で育ち、仙台市にある東北学院に進んだ。旧制第二高等学校、東京帝国大(現在の東大)を卒業。欧米留学を経て東北帝国大(現在の東北大)で行政法の教授に就いたが、軍事教育を批判するなどして職を追われた。弁護士に転身し、戦後は計7期にわたって衆院議員(社会党、民社党)を務め、片山哲内閣で司法相を務めた。衆院議員として憲法改正案の審議で、憲法9条に「平和」の文言を加え、25条の生存権規定の追加に寄与したことが、近年になって注目されている。義男は「よしお」と読むが、「ギダンさん」の愛称で親しまれた。

 シンポジウムでは、若手の安蔵研究者で筑波大大学院の戸田舜樹(みつき)さんと、2023年に「平和憲法をつくった男 鈴木義男」を出版した仁昌寺(にしょうじ)正一・東北学院大名誉教授が講演。また、安蔵の妻の父は吉野作造の親友で、義男は東大で吉野に学んでおり、二人とも吉野と親交を結んでいた。石村修・専修大名誉教授は吉野と二人の鈴木をテーマに講演する予定。講演後のディスカッションのテーマとして、「二人の鈴木」だったら東京電力福島第1原発事故後の状況をどう考えるかなどを想定している。

 憲法理論研究会には約350人の会員がいる。毎月の例会は若手の報告を中心に実施し、数多くの研究者が研さんを積んできた。代表(運営委員長)の志田陽子・武蔵野美術大教授は「憲法の改正が論議される昨今、私たちは、憲法の価値を、原点に戻って知る必要があります。憲法制定に大きく関わった『二人の鈴木』を通じて、日本国憲法がすぐれて人間的なドラマと世界史レベルの英知を内包した人類遺産であることを知っていただきたい。ぜひご参加ください」と呼びかけている。

 シンポジウムは浮舟文化会館で午後2時から、入場無料、定員300人。参加の申し込みはQRコードの専用フォームから申し込むか、6日以降は事務局のメールアドレス(info@kenriken.jp.net)へ。【木村健二】

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