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娘失い地獄の日々…「重い判決を」 静岡・幼稚園児バス置き去り死

毎日新聞 2024年7月4日 5時30分

 静岡県牧之原市の認定こども園「川崎幼稚園」で2022年9月、園児の河本千奈ちゃん(当時3歳)を送迎バスに取り残し熱中症で死亡させたとして、業務上過失致死罪に問われた前園長と元クラス担任に対する判決が4日、静岡地裁で言い渡される。千奈ちゃんがいない日々は「地獄のよう……」。法廷でそう声を震わせた父親(40)。判決を前に「千奈は殺されたも同然。せめて私たちに寄り添い、報われるような重い判決を千奈に聞かせたい」と胸中を語った。

欠かさぬ日替わりの陰膳

 自宅のリビングには、大好きだった「リカちゃん」や「メルちゃん」の人形に囲まれた、千奈ちゃんの写真が掲げられている。

 助けられなくてごめんなさい――。家族は毎日、目をつむり手を合わせ、白いご飯と好物のみそ汁や唐揚げ、お菓子や果物などを日替わりで供えている。家族で千奈ちゃんの話をしない日はない。

 父親は言う。ふとした瞬間に愛娘が目に浮かび、涙がこぼれてしまう。風呂に入っていると、一緒に「あいうえお」を読んだり、数字を数えたりした思い出が、ぬくもりとともによみがえる。お菓子の袋を「うまくあけれない」とぐずる姿が可愛くて印象的だった。「パパが大好き」「パパに会いたい」。笑顔は脳裏に焼き付いている。

 22年9月5日の朝、「ママ、できたよ」と初めて自分でブラウスのボタンを留めてみせた千奈ちゃん。約5時間後に送迎バスの車内で発見された時には、ブラウスは脱ぎ捨てられ、麦茶の入った水筒はからっぽで転がっていた。バスを運転した当時の園長、増田立義被告(74)は園児たちの降車確認を怠り、クラス担任だった西原亜子被告(48)は所在確認をしなかった過失を問われ、いずれも起訴内容を認めている。

「区切り」には「実刑しか」

 「灼熱(しゃくねつ)のバスの中に1人で取り残され、懸命に生きようとした。その肉体的苦痛や絶望感は想像を絶する」。検察官は6月13日の公判で、増田被告に禁錮2年6月、西原被告に同1年をそれぞれ求刑。父親は「実刑を望みます」と意見陳述した。夫婦で内容を何度も練り、読み上げる練習をしたが言葉に詰まった。「千奈や家族の無念が裁判官に分かりやすく伝わるようにと懸命だった」。求刑を聞いた時には、ある同種事件が頭をよぎった。

 福岡県の認可保育園で2021年7月、送迎バスに取り残された園児の倉掛冬生(とうま)ちゃん(当時5歳)が熱中症で死亡した事件。2人が業務上過失致死罪に問われ、バスを運転していた前園長への求刑は禁錮2年だった。

 「1年前に同じような事件が起きたばかりなのに(安全管理の責任者だった)増田被告が防止対策を講じなかったことを検察官は考慮し、求刑を重くしてくれたのかもしれない」。父親はそう考えている。ただ、福岡地裁判決(禁錮2年)は執行猶予が付き、「裁判は前例をなぞる。今回も執行猶予の可能性が高いのではないか」とも思う。

 判決を一つの「区切り」だと周囲は言うのかもしれない。だが、かけがえのない愛娘を奪われた傷はあまりに深く、「区切り」だと思えるとすれば「実刑」しかあり得ない。父親の訴えには、行き場のない怒りと悲しみがにじんでいた。

 判決は4日午前11時に言い渡される。【丘絢太】

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