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先人の思い、子々孫々に 西日本豪雨で浸水した史跡「古学堂」再建

毎日新聞 2024年7月6日 10時0分

 2018年7月の西日本豪雨で床上浸水180センチの被害を受け、「全壊」の判定を受けた愛媛県大洲市の市史跡「古学堂(こがくどう)」の建物が、約2年間の修復工事を経て江戸期の姿そのままによみがえった。「伊予最古の図書館」とされ、多くの人材を育てた学舎。復興に取り組んだ地元有志による「大洲古学堂保存会」は、門人らが知恵を出し合って守り育てた学舎の原点に立ち返り、子どもたちに学びの大切さを伝える場として活用する考えだ。

古学堂とは

 豪雨に襲われた6年前の7月7日午前、古学堂近くの肱川(ひじかわ)が氾濫し、濁流が押し寄せた。保存会事務局を務める八幡神社の常磐井守道(ときわいもりみち)宮司(51)は、貴重な文化財類の救出に駆けつけた。「正午前にはひざ上ほどの浸水。午後1時半ごろには胸の辺りになり、泳ぐように脱出した」と振り返る。収蔵品の多くは水損した。

 古学堂は約320年前の貞享・元禄時代に開かれた私塾。北海道函館市の「五稜郭」を設計した蘭学者・軍人の武田斐三郎(あやさぶろう)ら多彩な人材を育てた。2階建ての文庫と平屋の学室からなる。1858(安政5)年、門人で蘭学者の三瀬諸淵(みせもろぶち)が長崎から持ち帰った電信機械を使った電信実験「三瀬諸淵の針金だより」に国内で初めて成功した場とされ、NTT西日本の寄進による説明看板も立つ。

寄付やCFで資金集め

 豪雨の被災者でもあった多くの地元有志が、自身の生活再建を進めながら19年12月に保存会を結成。22年夏から23年春にかけて文庫、次いで学室の修復工事を進め、総額約3800万円をかけて24年5月末に工事全体が終了した。保存会は歴史愛好家らから約1300万円の寄付を受けたほか、クラウドファンディングで全国から385万5000円を集めた。

 保存会は23年2月以降、文化財について学ぶ講座や水損史料の救出方法を紹介する講座などを古学堂で開いた。今後も子どもたちに地元の先人について伝える教室を開くほか、江戸期の私塾の流れをくむ国内各地の教育顕彰機関をオンラインで結んだシンポジウムの開催を検討している。

 「水害に負けて学舎を取り壊したのでは、未来の子どもたちのために近隣に米の寄付を募って運営した江戸の先人に申し訳が立たない」と常磐井さん。「水害が『あったからこそ』残ったと未来の人に思ってもらえる古学堂にしたい」と誓いを立てている。【松倉展人】

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