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心霊スポットで客を降ろし… 抽選倍率62倍のタクシーツアーとは

毎日新聞 2024年7月7日 18時0分

 神奈川、東京、埼玉に拠点を持つタクシー会社「三和交通」(横浜市)は、夏季限定企画「心霊スポット巡礼ツアー」の抽選申し込みを受け付けている。会社の知名度アップや新卒採用増を狙って始めた企画は予想外の好評を博して続き、今年で10周年。同社は、タオルなどオリジナルグッズも作り、「最強の恐怖を更新して届けます」と申し込みを呼びかけている。

 ツアーは、同社のドライバーから「近づきたくない場所」や「ドライバー仲間で『幽霊が出る』とうわさしている場所」などの情報を集めて、独自コースを設定している。走行中に「次の××トンネルで、△△の幽霊が出ると言われています」などと説明し、到着すると乗客に降りてもらい雰囲気も味わってもらう。

 今年は28日~8月26日の日曜、月曜の夜で計10日間。横浜エリアのほか、東京の多摩エリアと府中エリア、埼玉のふじみ野エリアに計40枠を設けた。ツアーは3時間程度だが、多摩のみ午後8時から8時間のオールナイトコース。料金(1台4人まで)は2万2000~4万5000円。申し込みは専用サイトで7月15日正午まで受け付ける。

 このツアーを発案したのは、吉川永一(ながいち)社長(47)だ。同社はもともと、ゆっくり走って揺れを感じさせない「タートルタクシー」などユニークなサービスやツアーを実施してきた。

 2015年にインパクトの強いツアーを思案していた吉川社長が、「タクシーと心霊スポットは親和性がある」として心霊スポット巡りを思い付いた。客を乗せて振り返ると、誰もいなくて後部座席がぬれていた――。そんな話がホラー番組によく登場することから着想したという。

 しかし役員会では吉川社長の提案に全員が反対。「クレームにつながる」「お客さんやドライバーが実際に呪われたらどうする」などの意見が出たという。そこで「1シーズンやって、だめならすぐやめる」として実施にこぎ着けた。新横浜駅を発着地として「ガード下」や「廃虚ホテル」などを巡る90分コース(6000円)は、13日間のチケットがすぐに完売。16年にも行い、その後、軌道に乗った。申し込みは女性が多いという。

 コロナ下でもマスク着用を徹底し、アクリル板を厳重に設置して実施してきた。広報担当の小沢千秋さんは「22年の夏は前年と比べて外出する人が増えたのか、抽選倍率が過去最高の62倍でした」と振り返る。

 起用するドライバーは、やりたい人や話の上手な人。ツアー歴2年の男性運転手(57)は「他社ではできないことを経験でき、やりがいがある」と気に入っている。怖い体験をしたことは、と尋ねると「本当に怖いのは、酔ったお客さんがひょう変して怒り出した時ですね」と語る。

 ツアーの人気が高まる一方で、同社には悩みも。「事業としては赤字です」と小沢さん。社員らを客役で動員して本番同様のテスト走行を複数回したり、サイトを充実したりで準備に手間がかかり、人件費もかさむという。それでも「5月から『今年も絶対やって』などと要望が寄せられる人気のため、やめるにやめられないのです」と悲鳴を上げている。【遠藤和行】

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