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古代炉で精錬した鉄で剣を 東日本最大の生産地で挑戦 福島・飯舘

毎日新聞 2024年7月11日 8時0分

 古代炉で精錬した鉄で剣を作ろう――。今から1200~1300年前に東日本で最大の鉄生産地だった福島県の浜通り地方にある飯舘村で、そんなプロジェクトが進んでいる。8月3日には炉に火を入れて実演する。

 国内での鉄作りは古墳時代後期の6世紀後半ごろに始まったとみられ、浜通りではそのおよそ100年後に製鉄が始まったと考えられている。

 「いにしえの鉄作り」と聞いて真っ先に思い浮かぶのが、宮崎駿監督のアニメ映画「もののけ姫」に出てきた「たたら製鉄」だ。足踏み式のフイゴで炉に空気を送って温度を上げ、砂鉄や鉄鉱石から鉄を取り出す「たたら製鉄」は“日本独自の製鉄法”ともいわれる。

 福島県内の考古学調査では、浜通りを中心に「たたら製鉄炉」が200基以上も見つかっている。これはいち早く鉄作りが始まった中国地方と並び立つ鉄生産地だった証拠で、飯舘村でも鍛冶に使う炉や道具が過去には確認された。阿武隈高地から太平洋へ流れ込む川の流域や砂浜で砂鉄が採れたことに加え、朝廷に従わない「蝦夷(えみし)」の拠点に近接する土地で武具などに用いる鉄が必要だったことなどが、鉄作りが盛んになった理由だと考えられている。

 6月末、福島市の立子山地区を訪れると、斜面に約2メートルの古代炉が設置され、集まった研究者らが交代で「たたら」を踏んでいた。

 この古代炉は、南相馬市の横大道(よこだいどう)製鉄遺跡から出土した8世紀後半の炉をモデルにしたもの。用いる砂鉄は砂浜に堆積した「浜砂鉄」、燃料はクヌギの木炭で、いずれも当時使用されたものだ。

 過去の実験では、炉内でできた不純物が通風口を塞ぐなどしてうまくいかなかった。10回目の挑戦となる今回は、砂鉄を投入して約7時間後に鉄や不純物が溶けて入りまじった「鉄滓(てっさい)(ノロ)」が狙い通りに炉外へと流れ出し、炉を解体して底部を調べると、小さいながらもまとまった鉄が見つかった。

 立子山と飯舘での古代炉復元プロジェクトを率いる川俣町歴史・文化係長の吉田秀享さん(63)は「これまでは失敗を繰り返してきたが、当時と同じ材料を用いて一歩は前進できたと思う。後は操業の全体の質をいかに上げることができるか」と情熱を燃やす。

8月3日お披露目、グルメ屋台も

 8月3日に飯舘村で復元する古代炉は、秋田県鹿角(かづの)市の堪忍沢(かんにんざわ)遺跡で確認された炉だ。これは「たたら製鉄炉」で作られた鉄を精錬して鋼などに変えるための炉の可能性があり、鉄を刀などに加工するには必須となる。

 できあがった鉄は立子山の刀匠・藤安将平さん(77)が古代の鉄剣・蕨手(わらびて)刀に仕上げる。藤安さんは「今回の鉄で実際に刀を作れば想像もしなかった事実が分かるはず。一番わくわくしているのは私かもしれない」と笑顔だ。

 2011年3月の東京電力福島第1原発事故で一時全村避難を強いられた村は、かつて地域を支えた「鉄」が再びにぎわいにつながることを期待する。

 藤安さんの弟子の二瓶貴大さん(45)は、19年に原発事故後初となる「村内進出企業」として飯舘村で刃物工場を開いた。今回の炉は二瓶さんの刃物工場がある旧村立幼稚園敷地内に復元され、操業当日は地元グルメの屋台も呼んで村内外から人が集まるにぎやかなイベントにしたいと考えている。

 二瓶さんは「工場を開いた時から、鉄や刃物を通じて村に人が集う機会を作りたいと思っていた。当日は飯舘の鉄を巡る歴史や誇りのような気持ちを、集まった皆さんと共有できたらうれしい」と呼びかけている。

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 一連のプロジェクトは「山の向こうから鐵(てつ)を打つ音が聞こえる」と名付けられ、20日には吉田さんが古代の鉄作りと復元炉について村交流センターふれあい館で講演する(13日までに要予約、無料)。8月3日には「刃物の館やすらぎ工房飯舘工場」(飯舘村草野大師堂)で、実際に炉の操業と刀作りを実施(予約不要、入場料500円)。同4日にも鉄作りを学ぶワークショップ(7月28日までに一部要予約、無料)を開くなど関連イベントも盛りだくさん。予約の申し込みや詳細はQRコード(https://yamatetsu.peatix.com)から。【岩間理紀】

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