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「何があっても」歌い続ける加藤登紀子さん 母校・東大でコンサート

毎日新聞 2024年7月13日 11時0分

 歌手の加藤登紀子さんが14日、母校の東京大学・安田講堂(東京都文京区)で、同窓生によるオーケストラとともに「能登半島地震被災者支援チャリティーコンサート」を開く。歌手デビューした1960年代の大学紛争を象徴する場所での歌唱を前に、「何がその時の本質だったのかを若い人に伝えたい」と意気込む。

 「床の色は変わったよね。もっと暗かった気がするけど明るくなった」。6月中旬、安田講堂を下見に訪れた加藤さんが言った。2014年の全面改修後、初めて足を踏み入れた。

 安保闘争で死亡した東大の女子学生に刺激されて東大を受験。だが、入学して「政治にできないことがあるのは嫌というほど見せつけられた」。それよりも「人間としてどうやって生きるか」が課題だと感じた。

 加藤さんにとって答えは「1人で自由に生きられる歌手」だった。在学中の65年、シャンソンコンクールで優勝しデビュー。「(不思議の国の)アリスの大冒険みたいに何が起こるか分からないけど、何があっても生き抜くという気持ちだった」と当時を回想する。

 そんな険しい道を歩み始めた加藤さんが東大を卒業する68年3月、安田講堂での卒業式は学生のボイコットで中止になった。加藤さんも講堂前の広場に座り込んだ。ボイコットはあくまでも「学内的な闘争だった」と振り返った上で加藤さんは言う。「若い時は通過点でしかなかった60年安保も今、私の中では大事なこと」

 来年はデビュー60年にして戦後80年という節目が重なる。「ものすごく大事なものを全部見てきた気がする。歌を通して鮮度の高い状態で歴史を伝えていきたい」

 コンサート前半は「東大同窓生オーケストラ」がモーツァルトの交響曲第40番などを演奏し、後半は加藤さんとオーケストラが共演する。プログラムにはヒット曲「百万本のバラ」や「愛の讃歌」のほか、加藤さんが声優を務めたスタジオジブリのアニメ映画「紅の豚」で歌った「さくらんぼの実る頃」「時には昔の話を」も並ぶ。

 「紅の豚」について、加藤さんは「二つの大戦の谷間の混乱状態みたいな時代を描いているわけだけど、混乱状態は未来を探しているから、一瞬虹がかかったような社会でもある。それを宮崎駿さんが描いている」という。そして、現在の世界情勢にも思いをはせるように言葉をつないだ。「支配された人たちが支配から逃れていた時代。今、それを思い出すことはすごく大事だ」

 今回の公演ではロシア人作曲家、ラフマニノフがニューヨークの自宅で愛用していたスタインウェイのグランドピアノが使われる。ラフマニノフの没後は後世の作曲家らに引き継がれ、現在は同窓生オーケストラのメンバーの一人が所有している。

 午後4時開演。全席指定8000円。問い合わせは事務局(090・6510・4297)。【西本龍太朗】

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