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ヘアデザイナー加茂克也さん 鬼才の遺作ヘッドピース、美術館初展示

毎日新聞 2024年7月20日 9時30分

 洋服が主役のファッションショーの世界で、モデルの頭部を飾る「ヘッドピース」デザイナーとして際立った存在感を発揮した加茂克也さん(1965〜2020年)の仕事を振り返る美術館では初めての企画展が、香川県丸亀市の市猪熊弦一郎現代美術館で始まった。パリコレクションなどで実際に着用された作品約200点や創作ノート、国内外の雑誌や新聞といった資料に加えて、プライベートに自宅で日常的に制作していたというボックスアート(箱入りのオブジェ)約200点も出品され、手作業の中でイメージが膨らんでいく様子をうかがわせている。

 加茂さんは福岡県出身。1988年に入った「モッズ・ヘア」でヘアデザイナーとしてのキャリアをスタート。ヘアメークにとどまらず独自のヘッドピースを制作するようになり、国内外のブランドのショーでも活躍した。2003年には第21回毎日ファッション大賞を受賞。ファッションデザイナー以外の受賞は初めてだった。

身近な素材を組み合わせ

 猪熊弦一郎美術館にとっては14年の「拡張するファッション」展以来となるファッション関連の企画展。学芸員の古野華奈子さんが、加茂さんの生前から撮影が進められたモノクロームの作品写真集「KAMO HEAD」(21年刊行)を見て「細部まで作り込まれ、造形の完成度が高い。これは展覧会になる」と企画。展示室には、マネキンに装着されたヘッドピースが、素材などのゆるやかなまとまりごとに並べられている。

 白い大輪のバラの花が頭部を囲み、さらにトゲが巻き付いている形のものは、09年春夏のシャネルのオートクチュールコレクションで使われたという。近くで見ると、意外なほど身近な紙などを組み合わせて作られたことがうかがえる。

 他にも、大量の鳥の羽を大胆にあしらったものや、シャンデリアのように光るもの、白黒の幾何学模様で顔面を覆うマスク、髪の毛を編み上げてつくったように見える冠状のものなど、素材も形もさまざまな作品群が展示されている。創作ノートには「TOKYU HANDS SOMETHING SILVER」(東急ハンズ 何か銀色のもの)といったメモも残り、創作の過程が垣間見られる。

 また、1階から2階にかけて吹き抜けの壁一面にボックスアートを配置。卵の殻やマグカップ、枯れた木の根っこなど、やはり身近な素材を組み合わせてイメージを膨らませたと思われるものが並んでいる。展示会場の構造上、壁の上の方に設置されたものは近くで見ることができないため、2階には双眼鏡が置かれている。

 写真集「KAMO HEAD」のブックデザインを担当した黒田益朗さんによると、加茂さんは生前、ボックスアートづくりとヘッドピースづくりは一貫していることを伝えたいと話していた。結果として実現はしなかったが、1冊の本に両方の写真を収めることを望んでいたという。

「アンリアレイジ」のショーも

 企画展初日には、10年から10年間、加茂さんと組んで東京コレクションやパリコレで作品を発表してきたブランド「アンリアレイジ」(東京)のファッションショーも行われた。

 デザイナーの森永邦彦さんは「加茂さんのヘッドピースを乗せると、洋服が輝き始める。しっかり対峙(たいじ)できるものを作らないと、と思わされ、引っ張ってもらった。加茂さんなくして、今のブランドはない」と振り返る。演出家の金子繁孝さんと共に、10年間をたどるようにショーを構成した。

 大きなヘルメット型のものや、顔全面を覆うマスク型のものなど、さまざまなヘッドピースを着けた8人のモデルが代わる代わる登場し、パッチワークなどさまざまな服との組み合わせで披露された。ポンポンのように大きく広がって揺れる黒や茶、白のヘッドピースは、加茂さんにとって最後のパリコレになった19~20年秋冬シーズンのショーで使われたものだという。

 企画展は9月23日まで。ショーの映像も公開している。月曜休館(祝日は開館、翌火曜休館)だが、理美容店に勤める人も訪れやすいように第1月曜(8月5日、9月2日)は特別開館する。【森田真潮】

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