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盗掘集団が使用の「遺留品」公開 奈良・高松塚古墳 8月25日まで

毎日新聞 2024年7月27日 7時30分

 飛鳥美人壁画で知られる奈良県明日香村の高松塚古墳は鎌倉時代に盗掘されている。盗掘集団が石室内を照らすために使った遺留品の「灯明皿」(国重要文化財)が27日から、キトラ古墳壁画と同時に、村内の展示会場で公開される。特徴のない土師器(はじき)のため犯人の手がかりにならないが、古墳盗掘という負の歴史を知る重要史料だ。8月25日まで。

 石室内は暗く、盗掘時は複数の明かりで照らしたとみられ、灯明皿は壁画が発見された1972年の発掘調査の際、主に破片で数点が見つかった。一括で国重要文化財に指定された高松塚古墳出土品のうち、飛鳥時代以外の遺物は灯明皿のみだ。今回公開する灯明皿は奈良文化財研究所が三つの破片をつなぎ合わせて1個に復元したもので直径13センチ。明日香村阿部山の「キトラ古墳壁画体験館 四神の館」でキトラ壁画の朱雀と一緒に公開する。

 盗掘は県立橿原考古学研究所の岡林孝作・学芸アドバイザーが論文「高松塚古墳の盗掘」(2020年)で詳しく説明。盗掘者たちは13世紀前半のある夜、墳丘南側から鋤(すき)などで掘り進み、石室の南壁に穴を開けて侵入。ひつぎを解体して金銅製の飾り金具を持ち去ったほか、一部壁画から金ぱくなどをかき取った。「悪行を見られた」と恐怖を感じたせいか、北壁壁画・玄武のヘビとカメの顔を削り取った。

 高松塚だけでなく、全国の目立った古墳のほとんどが盗掘されている。貴族から武家社会に移行して天皇の権威が低下した鎌倉時代に目立ち、高松塚と同時にキトラや野口王墓古墳(天武・持統天皇合葬陵)など飛鳥地域の天皇や皇子の墓が次々と盗掘された。この三つは同一犯の可能性も指摘されている。

 盗掘集団について「続明日香村史」(06年)は大和(奈良県)を支配していた興福寺に従わなかった土豪を挙げる。13世紀後半になると、土豪らは「大和の悪党」と呼ばれるが、南北朝の動乱で活躍した武将・楠木正成も「悪党」出身とされ、あくまで支配者層から憎まれた新興勢力の呼び名のようだ。

 また、そもそも鎌倉時代の石室への侵入が財宝目的ではなく、天皇や皇子の遺骨を拝む宗教行事だったという説もある。岡林・学芸アドバイザーは「築造時の姿を明らかにするためにも、古墳の盗掘の状況を研究する必要がある」と話している。

 灯明皿が同時公開されるキトラ壁画展示(無料)は事前申込制。問い合わせは事務局(06・6281・3060)へ。【皆木成実】

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