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想像を超える痛みに思わず「ウァ…」 男性記者が生理痛を疑似体験

毎日新聞 2024年7月28日 10時0分

 同僚の女性記者から「生理痛を体験できる催しがある。男性こそあの感覚を味わうべきだ」と強く勧められた。生理痛についてなど想像すらしてこなかった私は興味を覚え、取材に向かった。それは、これまでの人生で味わったことのない感覚だった。【小宅洋介】

 6月中旬、大阪市内で「エシカルエキスポ2024」というイベントが開かれ、その一角に「生理痛」の体験コーナーがあった。運営主体は、関西の大学生・大学院生で構成される学生団体「BeaGe」(Beans for Gender Equality)だ。

 体験前、事前に痛みが与えられる事への同意や、健康上の問題がないかについて確認する。その後、下腹部に電極パッドを2枚貼り付けて準備した。使うのは「大阪ヒートクール社」が展開する「ピリオノイド」と呼ばれる装置だ。電流で腹直筋を収縮させ、生理痛が疑似体験でき、痛みは強・中・弱の3種類ある。

 「どうしても『耐えられない』と感じたら『ストップ』をお願いします」。団体のメンバーに声をかけられ、少しおじけづいたが、まずは「弱」からスタートした。

 スイッチを押してもらうと、これまで味わったことのない衝撃が走り、思わず前かがみになった。下腹部の奥深いところが誰かに握られているようだ。

 「次は『中』ですが、大丈夫ですか」。ここでやめては記事にはならないので「お願いします」と答えた。しかし、思わず「ウァ……」と声が出た。今度は腹の中で何かが暴れているような感覚で、強い痛みだ。「無理はしないでくださいね」と言われ、「はい」と即答したが、この状態で日常生活を送るのは難しいと感じた。

 さらに「強」も体験したが、意識が痛みに集中し、他のことは何も考えられない状態だった。女性がこの装置を体験すると、実際の痛みは「強」に近いと答える人が多いという。

 「BeaGe」は大阪大大学院2年の斎藤智咲さんと、奈良女子大大学院1年の小阪(こざか)ゆき乃さんが中心になり、今年3月に関西の学生らで立ち上げた。

 2人は「体験をすることで、生理痛などのジェンダー課題をディスカッションする入り口にしたかった」と実施の理由を話す。

 団体設立の背景には、生理痛やジェンダーの話はオープンに語りにくいという現実への問題意識がある。副代表の小阪さん自身、家庭で父親とは生理の話をしにくく、自分と母親だけのものになっていたという。

 ブースで、体験後の男性らが「母親や姉の生理なんて考えたことなかった」「痛みはどれくらいの期間続くのか」などと、団体メンバーに感想や疑問をぶつけていた。

 装置を扱う大阪ヒートクール社は、大学教員5人が集まって設立されたベンチャー企業だ。甲南大と奈良女子大で生理痛を再現する研究の中で、装置が生み出された。これまで企業研修などで活用し、延べ70以上の企業・団体の約3000人が体験した。

 同社の代表取締役で、大阪大助教の伊庭野健造さんは「生理痛の痛みはもちろん問題ですが、周りから理解が得られないことがそれ以上につらいということがわかる」と話す。

 伊庭野さんによると、装置を発案した女子学生は「女性同士でも生理痛の痛みが完全には分かり合えていない」との思いが、開発の動機の一つになったという。「それぞれが抱える『痛み』はなかなか伝わらない。体験することによって、『(相手に)聞かなきゃ』という気持ちになる」と体験の意義を語る。

 漢方薬品メーカーのツムラが2022年に発表した、15〜49歳の女性6000人に実施したアンケートで、回答した約5割が生理痛やPMS(月経前症候群)のつらさを周囲に「伝えない」と回答した。回答者の約6割が「周囲に症状を理解してもらえず、つらい思いをした経験がある」という。

 私も今回の体験がなければ「生理痛」の痛みや困難を想像しようとも思わなかった。生理痛に限ったことではないが、他者が抱える痛みを理解し、配慮する大切さを改めて感じた。

 代表の斎藤さんは「体験して痛かったから『誰かに優しくします』だけで終わると、ちょっと違うかなと思う。例えば、生理休暇の制度があっても使えている人はほとんどいない。背景にある、社会の空気の問題などにも目を向けてほしい」と話す。

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