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「四半世紀に及ぶ悲願」が現実に 佐渡島の金山、世界遺産登録

毎日新聞 2024年7月27日 21時39分

 国連教育科学文化機関(ユネスコ)の世界遺産委員会が27日、「佐渡島(さど)の金山」の世界文化遺産登録を決定した。県内では、地元関係者らが各地で委員会の審議の様子をパブリックビューイング(PV)で見守り、登録決定が発表されると、歓喜に沸いた。【中津川甫、神崎修一、木下訓明、田倉直彦】

 佐渡市では委員会の審議を同時通訳付きで中継するPVが「きらりうむ佐渡」(同市相川三町目浜町)で開かれ、市幹部や市民ら約200人が大型モニターを見つめた。午後2時前に登録が決まると、会場は金色のスティックバルーンを打ち鳴らし、くす玉を割って祝った。

 PV会場で見守った、佐渡市相川地区で古民家を改修したホテルを運営する「相川車座」の雨宮隆三社長(48)は「世界中から多くの旅行者が訪れることになる。旅行者に満足してもらえるよう受け入れ態勢をつくり『佐渡ファン』を増やしたい。これをきっかけに関係人口の拡大や地域の経済活性化にもつなげたい」と期待を寄せた。

 西三川砂金山に近い笹川集落の住民でつくる「笹川の景観を守る会」の金子一雄会長(64)は「時間はかかったが、世界的に価値があると認められたことは非常にうれしい。後世に残すための保全活動をこれからも続けていきたい」と笑顔を見せた。

 観光施設「史跡佐渡金山」を運営するゴールデン佐渡の鈴木徹社長(62)は「施設を適切に維持管理していくと共に、国内外から多くの観光客に来ていただき満足してもらえるよう努力したい」と強調。世界遺産の登録効果については「佐渡の関心が高まるので、入場者が前年度比で1割ほど増えるのではないか」と期待を寄せた。

 一方で「観光客の増加により車の渋滞や駐車場の不足、入場の受付で行列ができる可能性がある」と課題にも言及。佐渡市などと協力しながら対処していくとした。

 佐渡市の鬼沢佳弘副市長は「世界遺産登録はおよそ四半世紀に及ぶ佐渡の悲願で、立ち会えて本当に幸せ」と笑顔。「登録後は未体験の世界になる。観光客増加によるオーバーツーリズム(観光公害)が生じた場合は状況に応じて迅速に対応する」と説明し、交通や観光業者、ボランティアなどの民間と連携して対応する考えを示した。

「会員の皆さんの顔を見ると…」

 新潟市内でもPVがあり、関係者や県民が新潟日報メディアシップ(新潟市中央区万代3)で審議の様子を見守った。登録決定後、「佐渡を世界遺産にする新潟の会」の池田哲夫会長(73)は報道陣の取材に応じ、「喜び以外、言葉に表せない」と笑顔。2012年の会結成以来の活動が実を結び「会員の皆さんの顔を見ると『年を取ったな』と思う。今日のこの瞬間を見届けることができた」と言葉を詰まらせた。

 今月就任したばかりの鈴木康之副知事はPVであいさつし、「歴史的瞬間をこの会場で皆さんと共有できたことをうれしく思う」と述べた。「これをスタートにして佐渡と新潟を盛り上げていきたい」と語った。

 ユネスコの諮問機関は6月、「登録」に次ぐ「情報照会」を勧告。世界遺産登録に見合う価値があるとした上で、韓国の主張を念頭に「鉱山開発全体の歴史を現場レベルで説明展示する」よう求めた。日本はこれらを受け、佐渡市相川坂下町の「相川郷土博物館」に金山の労働者に朝鮮半島出身者を含むことを示すパネルなどを新たに設置し28日から公開する。

 十数年前に亡くなった夫が、かつて佐渡金山で働いていた佐渡市赤泊の菊池久美子さん(63)は「夫は閉山まで働いていて、夫も私も金山には思い入れが深い。仏前で夫に報告したい。韓国側が日本の対応を認めて登録に同意したのでよかった」と感慨深げに語った。

吉沢文寿・新潟国際情報大教授(朝鮮現代史)

 世界遺産は全体の歴史を明らかにすることで登録された価値が分かる。例えば世界遺産の「ポトシ銀山」(ボリビア)は強制労働の歴史を紹介している。「佐渡島(さど)の金山」では戦時中の朝鮮人の強制労働はもちろん、江戸時代には地元島民が危険な重労働を担い、また江戸などから集められた無宿人らを強制労働させていた。遊郭もあった。それらも含めて世界遺産の構成要素だ。ユネスコ(国連教育科学文化機関)の理念には「教育や科学、文化の振興を通じて、戦争の悲劇を二度と繰り返さない」とある。つまり「平和」だ。世界遺産の持つ歴史から学ぶことが重要だ。負の歴史を知って学ぶことが、再び同じ過ちを繰り返さないことにつながる。

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