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「見たら幸せになる」ドクターイエロー 引退発表後、人気が加速

毎日新聞 2024年7月29日 11時0分

 「新幹線のお医者さん」とも呼ばれる点検車両「ドクターイエロー」(愛称)の引退発表に、世間はざわついた。運行ダイヤは非公開で、神出鬼没さから「見ると幸せになる」という都市伝説まで生まれた黄色い車体に今、再び注目が集まっている。【真貝恒平】

幸せを呼ぶ黄色い車体

 新幹線電気軌道総合試験車――。ドクターイエローの正式名称だ。新幹線の線路や電気設備を走りながら検測する役割を担う。現在走行している車両は、700系の新幹線をもとに製造された7両編成だ。最高時速は営業列車とほぼ同じ時速270キロ。JR東海とJR西日本がそれぞれ1編成ずつ保有し、東海道新幹線と山陽新幹線の全区間(東京―博多間・約1100キロ)を2日間かけて往復する。

 1964(昭和39)年に東海道新幹線が開業した当時は深夜の検測だったが、74年に営業列車と同じ時速210キロ(当時)の「T2編成」が登場してからは昼間に検測するようになった。10日に1度の頻度で運行するが、運行時刻は公開されていない。

 JR東海によると、車体に黄色が使われた理由は諸説あるが、白地に青いラインの新幹線に対し、黄色一色にして駅停車中でも乗車しないように区別し、夜間走行時にも目立つためという。

 黄色は幸せや思いやりなどを表す色合いと考えられてきた。強く印象づけたのは、高倉健さん主演の映画「幸福の黄色いハンカチ」(77年公開)だ。ドクターイエローが昼間の走行を始めた時期と重なり、黄色をまとった列車は幸福を運ぶとして、鉄道ファンの心をつかんできた。

グッズ売り上げ急増

 そんなドクターイエローの引退が6月13日、突然発表された。JR東海の車両は2025年1月、JR西の車両は27年以降をめどに老朽化などを理由に運行を終えるという。引退後の検測は「のぞみ」などの一部車両に専用機器をつけて実施する見通しで、新たな専用車両は配備しない予定。

 7月中旬の土曜日。JR東海が運営する「リニア・鉄道館」(名古屋市港区)は、午前中から多くの家族連れでにぎわっていた。お目当ては展示されているドクターイエローだ。79年に誕生し、05年に引退した922形で、この日は運転席も見学できる特別イベントが開かれていた。

 岐阜県各務原市から訪れた小学6年の鎌田健杜(けんと)さん(11)は「引退は寂しいけど、運転席に座ることができて楽しかった」と笑顔を見せていた。同館に勤務するJR東海の森岳志さん(35)は「元々イベントを開くと人気だったが、引退発表で人気に拍車がかかっている」と話す。

 館内のミュージアムショップでは、ドクターイエローのふりかけなど関連グッズが人気を集めている。店員の木崎秀美さん(32)は「引退発表後はグッズをレジに持ってくるお客さんが目に見えて多くなった」。引退発表前後のグッズ売り上げを比較すると、引退発表後の約1カ月で発表前の1・3~1・5倍に増加。さらに鉄道関連グッズの通販サイト「JR東海MARKET」でも、発表後1週間の売り上げが発表前1週間の約9・5倍に増え、現在も発表前に比べて約3・5倍と好調を維持している。

社員が感謝のボード

 ドクターイエローの引退発表後、JR鶴舞駅(名古屋市中区)の改札口付近にホワイトボードが設置された。ボードには「“ありがとう”ドクターイエロー」と題し、JR東海の社員がドクターイエローへの感謝をつづった文章とイラストが書かれ、駅を行き交う人々の心を和ませている。

 「お客様をお運びすることのないドクターイエローですが、どうやら“幸せ”を運んでいたみたいですね! 今日も幸せな一日になりますように。」

 昭和、平成、令和の時代に安全と幸せを運んだ「黄色い新幹線」は引退の日まで走り続ける。

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