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夏彩る打ち上げ花火の火薬 江戸時代はおしっこが使われていた?

毎日新聞 2024年8月3日 16時30分

 夜空を彩る大輪の打ち上げ花火は夏の風物詩。かつては「和火(わび)」と呼ばれていたが、その火薬には原材料として、蚕のふんやヒトのし尿が利用されてきたという。なぜ、おしっこが花火のもとになるのか。

「黒色火薬」の材料に

 「江戸時代の打ち上げ花火『和火』は暗いオレンジ色でした。使われていた黒色火薬による光です」と産業技術総合研究所の松永猛裕招へい研究員(火薬学)は話す。黒色火薬は、花火が多色・多様化した今も、花火玉を上空に発射する「揚薬(あげやく)」として使われている。

 黒色火薬は中国で8世紀ごろに発明されたとされる世界最古の火薬だ。日本には16世紀にポルトガルから火縄銃とともに伝わった。硝酸カリウム(硝石、KNO3)約77%、木炭約15%、硫黄約8%を混ぜて作られる。和火のオレンジ色は木炭の燃える色だ。

 ただ、硝石は水に溶けるため、湿潤地域の日本では産出しなかった。そのため江戸時代は、窒素(N)成分を含む床下の土や、養蚕で出た蚕のふんなどを使い、まず地中の細菌の働きによって酸素と結びついた硝酸イオン(NO3-)に変化させ、その上で木灰中のカリウム(K)成分と反応させて硝酸カリウムを作っていた。ヒトの尿中にも尿素などに窒素が含まれており、薩摩藩では人のし尿も火薬の材料とされていたという。硝石はその後、輸入で安価に代替物質が手に入るようになり、こうした生成法は廃れていった。

可燃物が一体化した酸素と反応

 なぜ火薬に硝石が必要なのか。松永さんは「火薬は酸素がなくても燃焼するのが一番の特徴」と解説する。通常、可燃物は空気中の酸素を使って燃焼するが、火薬は原料の中に既に酸素を含んでいる。黒色火薬も硝石中に酸素を含み、木炭と結びついて燃焼するが、火薬の粉として一体化した酸素を使うために反応が急速に進み、二酸化炭素などのガスが一気に発生して爆発するのだ。硝石のような酸素を供給する物質は酸化剤と呼ばれ、火薬製造では重要な物質だ。

 現在の花火は黒色火薬以外にも、キラキラと燃える金属粉や鮮やかな炎色反応を利用する華やかなものが主流となっている。松永さんは「先人の発見や花火師の努力の歴史を科学的にも知って観賞してみては」と呼び掛ける。【露木陽介】

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