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海水浴で人気のフロート(浮き具) 思わぬリスクに注意を

毎日新聞 2024年8月2日 14時15分

 フロート(浮き具)に乗った子どもが海水浴中に沖に流されて海に転落し、意識不明になる事故が7月、福岡市であった。夏の海では、鳥やイルカ、ワニなどさまざまな形のフロートの利用者が目立つが、思わぬリスクがあることが実験結果から裏付けられている。

 「200メートルくらい沖にピンクのフラミンゴ形の浮輪が見えたが、人の姿は見えず、流された浮輪かと思った」。家族連れでにぎわう福岡市東区の志賀島海水浴場で7月30日、事故を目撃した会社員の男性(23)は表情を曇らせた。

 福岡海上保安部などによると、「浮輪に乗った2人が流された」と119番があったのは同日午後3時過ぎ。いずれも4歳の男児と女児が、フラミンゴ形のフロートに乗ったまま沖に流され、海に転落した。子どもらと一緒に海水浴に来ていた成人女性が救助し、漁船に引き上げられたが、男児は意識不明となり病院に搬送された。フロートが風に流された可能性もあるという。気象庁によると、同日午後3時に福岡市博多区では風速7・3メートルを観測していた。

風の影響、受けやすいフロート形状は?

 過去にもフロートが風に流される事例は相次いでいる。国民生活センターは2019年、海上保安庁などとフロートの形状によって風の影響の受けやすさに違いがあるかテストを実施。平らなサーフ形▽イルカのような海洋生物形▽鳥形――の3種にそれぞれ幼児の大きさのダミー人形を乗せてプールで風を当てると、鳥形に加わる力が最も大きく、漂流速度も最も速かった。

 鳥形フロートの立体的な形状は風を受ける面積が大きく、風の影響を受けやすいため漂流速度が速くなったとみられる。

 さらに毎秒2~4メートルの風が吹く海水浴場でテストしたところ、鳥形フロートは時速2・2キロで漂流した。110秒後には海岸から50メートル沖に流され、ウエットスーツを着た大人が追いかけても水深が増すにつれて追いつけなくなった。

 当時の海保のまとめでも鳥形や海洋生物形を合わせた動物形フロートを使用中の事故は複数報告されており、8歳がフロートで流された▽6歳がフロートに乗り大人が取っ手を持っていたが、手を離した際に沖に流され帰還不能になった▽4歳がフロートで風に流され、立ち上がった際に落水した――などがあった。

 同センターは事故防止のため、フロートの対象年齢を確認すること▽フロート使用時もライフジャケットを着用すること▽保護者が目を離さないこと――などを呼びかける。

 国内メーカー37社でつくる日本空気入ビニール製品工業組合(東京)によると、浮輪を含めたフロートには種類に応じた安全基準を設け「ST(安全な玩具)マーク」などを付けている。あくまで遊具であり救命用具でないことや、足が着くところで使用することなどの注意事項を本体に記載する。一方、形状については規制などはないという。

 組合の藤岡一雅事務局長は「フロートは高さに関わらず風や潮で流される危険性がある」と強調したうえで、海外メーカーの商品では注意書きがないものも多く流通していると指摘。「安全基準が守られた商品で使用上の注意を守って遊んでほしい」と訴える。

子どもの海の事故 5年で142人

 フロートの利用の有無に関わらず、子どもの海の事故は後を絶たない。海保によると、海で遊泳中の10歳未満の水難事故者数は19~23年で計142人に上り、うち12人が死亡。ほとんどが岸に帰れなくなったり溺れたりしたもので、死者のうち11人は救命胴衣を着けていなかった。【栗栖由喜、河慧琳、平川昌範】

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