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「また地震が来る」 最大震度6弱の被災地、臨時情報終了も残る不安

毎日新聞 2024年8月15日 18時36分

 宮崎県沖の日向灘で8日起きた地震を受けて発表された南海トラフ地震臨時情報(巨大地震注意)の「注意期間」が15日、終了した。最大震度6弱を観測した宮崎県などの被災地は復旧作業が続き、観光業への影響も長引く。巨大地震への不安が広がる中、命を守るためにどう備えるべきなのか。自治体や住民が課題に直面する中、この1週間で得られた教訓をどう生かすかが問われている。

かつて「村ごと沈んだ」大地震

 「ここは大地震で『村ごと沈んだ』と言われた地域。不安でたまらない」。宮崎市・島山地区の自治会長、茜ケ久保(あかねがくぼ)真由美さん(77)は高さ約12メートルの津波避難ビルから日向灘を見つめた。

 強い揺れが襲ったのは午後4時42分ごろ。自宅にいた茜ケ久保さんは、夕食用のイワシをさばいていた夫(79)に「こっちに来て!」と声を掛け、とっさに机の下に潜った。室内の無事を確認した直後、津波が頭をよぎり、自転車で津波避難ビルへと急いだ。

 「村ごと沈んだ」と伝わる大地震とは、江戸時代の1662年に起きた日向灘地震のことだ。地震の規模を示すマグニチュード(M)は推定7・6。当時あった外所(とんところ)村が津波で消滅したため、外所地震とも呼ばれる。

 住民らは毎年9月に供養祭を開いて被害を語り継いでいるほか、2004年には島山地区に自主防災隊を発足させて避難訓練を毎年実施。22年には夜間での避難訓練もしていた。初の巨大地震注意の発表に茜ケ久保さんは、3日分の食料確保や避難経路の確認などを呼び掛けるチラシを作り、回覧板で住民に周知した。

 ただ、地震発生当日に津波避難ビルに集まったのは午後7時時点で、地区の住民約400人のうち17人。茜ケ久保さんは防災意識の向上に課題を感じた一方で「『また地震が来る』と言い過ぎると、心配で眠れなくなる人もいるかもしれない」と悩みを打ち明ける。

施設の課題は

 子どもや高齢者を預かる施設でも緊張感が高まる。

 震度6弱を観測した宮崎県日南市の「ひなもり保育園」は海岸から約300メートルにある。津波などを想定した訓練を毎月実施しており、8日の地震では園児30人が近くの市営住宅の5階に5分ほどで避難した。

 岡留郁子園長は「訓練通りだった」と胸をなで下ろした一方、「どうしても保護者がすぐに迎えに来られない場合もある」と、園児用の非常食の量を増やすことを検討するという。

 高齢者46人が入所する宮崎市の特別養護老人ホーム「三愛園」は津波の恐れがある際は屋上に避難することにしており、訓練も年2回している。ただ、夜間は職員が3人で、増員は人手不足もあって難しいのが実情だ。

 震度6弱以上の場合は他の職員も状況を見ながら出勤することにしているが、緒方俊(たかし)施設長は「津波が来るかもしれないのに本当に出勤させられるのか……。非常に難しい課題だ」と頭を抱える。

自治体も苦慮「避難のタイミング難しい」

 初の巨大地震注意に、自治体も対応に苦慮した。

 最大で13・5メートルの津波が想定される大分県佐伯市は21年、臨時情報が出た場合の対応方針を定めていた。巨大地震注意では「状況に応じて高齢者等避難発令」としていたが、今回は発令しなかった。担当者は「どのタイミングで避難の指示を出すのかが難しく、今後の課題だ」と明かす。

 宮崎県都農町も臨時情報が出た際の対応を地域防災計画に盛り込んでおり、特段の混乱はなかったという。ただ、避難時に一般の住民は車を使わないよう訓練などで呼び掛けていたが、地震直後は高台に向かう道で渋滞が生じた。計画では避難時に車を使うのは主に、高齢者など支援が必要な「避難行動要支援者」としており、担当者は「理解を促していきたい」と話す。

 南海トラフ地震の津波避難対策特別強化地域に指定されている静岡県焼津市の担当者は「あらかじめ定めた行動マニュアルに基づいて対応し、市民への呼び掛け内容に迷うことはなかった」と明かした。一方、飲料水の買い占めで店頭から商品がなくなるなど市民の備蓄に不十分さも感じたといい「呼び掛けの方法を再検討したい」と語った。

観光地はキャンセル相次ぐ

 宮崎県などのホテルや旅館では、宿泊予約のキャンセルが相次いだ。

 宮崎市のホテル「ANAホリデイ・インリゾート宮崎」では約600室分のキャンセルがあった。担当者は「(キャンセルの)電話が鳴りやまなかった。一番の書き入れ時だったのに……。臨時情報が出ている中では、積極的に来てくださいとも言いづらかった」と話す。日南市の「ひなたの宿 日南宮崎」も18日まで満室の予定だったが、地震後に3割ほどがキャンセルされ約600万円分の損失が出た。取り消す客は地震への不安を口にしたという。

 総務省消防庁によると、今回の地震では15日午後7時半現在、宮崎、鹿児島、熊本の3県で計16人が重軽傷を負い、建物にも全壊や半壊などの被害が出た。宮崎市の担当者は「今は罹災(りさい)証明の問い合わせなどの対応に追われている。対応の検証はこれからだ」と語る。【加藤学、田崎春菜、森永亨、白川徹、丹野恒一】

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